- 「出くわした障害物」
僕達の旅は尚も続いている。
果てなく続く真っ直ぐな道の先の曲がり角を曲がり、
時には振り返ってみたりもした。
そこに何も無くても、僕はただ進み続けた。
だが、僕の道をふさぐ障害物に出くわしたのだ。
僕は、学園の中に建設されている住宅エリア。
そこの一室のアパートで休息していた。
あれから、地下鉄に乗ったり、リニアレールに乗ったり…。
ここは何だか、小さい遊園地のような学園だった。
だが、その広さは、明らかに遊園地以上あるはずだ。
沙紀に聞いた話だと、生徒数だけで約２４万、
学園内に生活している人数も総合すると、
約６０万以上の人が、この建物の中に住んでいると言う。
…一体どれだけの大きさなんだろう………。
しかし、大きさも去る事ながら、その設備にも非常に驚かされる。
空が見え、森があり、学生以外の人が居て、
ショッピングエリアもあり、部活動専門のエリアまで建設されていたりする。
更に、幼稚園、小学校、中学校、高校、大学、大学院まで用意されていて、
それだけの施設がそろっていながら、
学園に通う生徒達は、殆ど、この学園内の住宅エリアに収まっているそうだ。
沙紀も由紀も、学園内の住宅エリアに住んでいるらしい。
グリーンも、ブルーも…そして、あのブラックもだそうだ。
帰宅の途中に、沙紀に連れて行ってもらった、
ショッピングエリアで買った食材を、
楽しそうに調理する音が聞こえてくる。
ちなみに、ここは、僕等の為に緊急で用意された部屋。
台所用品、生活用品、就寝用具は揃っているのだが……
学園に通う為の勉強道具、暇をつぶす為のテレビや本。
最悪な事にラジオすら用意されていなかったのだ。
静かな空間に、野菜を刻む音だけが響き渡る。
ブラック、通称…【駆動 大樹】（くどう だいき）…。
彼等の中では、一番戦闘能力に長けていて、特に人間の血を好む……らしい。
まるで吸血鬼のような男だが、奴の手から出ていたあの刃物は、
物理的なものではなかったし、言うなれば魔法の様な物だった。
しかし、あそこに居た人達は、
何かしらそう言ったおかしな能力を持っているらしい。
そう、当然、この僕も含めて……。
沙紀いわく、僕の能力は【シールド】と言うらしい。
全ての攻撃を、完全に無効化する最強の能力で、
ヘリから、パラシュート無しに降りても無傷だったのも、
思い切り腹を抉られたのに、痛みすら感じなかった事も……。
通常では考えられない急激な速度で、
体内の組織が再生されているからとか何とか……。
とても信じられないが、ブラックに刺されたはずの傷は、
すでに、その痕さえも、完全になくなっていた。
ちなみに、戦隊ヒーロー部の正式名称は、【ガルディア】と言うらしい。
何でも、地上を征服しようとする異星人【ドミニオンズ】を退治する為に、
裏政府が、極秘で調査し、優れた能力を持つ者達が集められたのが、ガルディアだとかなんとか。
ドミニオンって事は…天使って事…か……。
正義や、平和の主張の天使を退治……。
天使と言えば、代表的なものが、頭のわっかと、そして…聖なる翼。
（じゃあ……恵の翼は？）
と、そんな時、僕の服の先が、クイクイッと引っ張られるのを感じた。
「あ、ご飯か」
僕が、そう言って振り返ると、恵は満面の笑みで、コクンっと一回頷いた。
頭の上にわっかは見えないが、
大きな翼は、今もまだ…彼女の背中に存在している。
恵の身体を、簡単に包み込めるほどの大きな翼。
相変わらず、何もかもを貫通し、
触れることはないので、どうやら、生活への支障は全く無いようだ。
鏡にも、ガラスにも、この翼は映らない。
沙紀の瞳にも、由紀の瞳にも、誰の瞳にも、この翼は映らない。
見えているのは…僕だけ。
僕の、もう１つの能力…【見極め】…
天使は、人間の姿と全く変わらない。
翼を隠し、人間の姿のまま、悪事を働く。
だから、中々退治する事が出来ない。
だが、僕の能力見極めがあれば、
天使が翼を隠しいても、僕には効果を為さないらしい。
沙紀の透視でも、彼等がいつ現れるとか、
そう言うのだけは何故か見えないとか……。
僕は、食事をしながら、ふと、恵の顔を撫でてみる。
恵は、恥ずかしそうに顔を赤らめ、うつむいてしまったが、
すぐに顔をあげ、可愛らしい笑顔で「どうしたの？」と言った様子で首をかしげている。
穢れの無い、純粋な笑顔。
ドミニオンズ…例え、天使達が悪行を働くものだったのだとしても、
恵は、絶対にそんな事はしない…いや……僕が、させない…。
「何でもないよ」
心の中でそんな事を思い、僕は、静かにその決意を固めるのだった。
「……この味噌汁美味いな」
次の日、僕と恵は、またも理事長に呼び出され、
問答無用で、入学手続きの紙を書かされた。
クラスは、残念ながら別々だった。
流石に、同じクラスに、同時に、二人も転校生が来るのは、おかしいとか何とか。
そんな事は…無いと思うのだが……。
非常に、恵の事が心配だった。
だが、恵のクラスには、沙紀が。
僕のクラスには、由紀が居た。
逆だったら心配だったが、沙紀が一緒に居てくれるなら、安心できた。
そうそう、これで初めて知ったのだが、二人は双子だったらしい。
通りで、初めて見た時も、どことなく同じ顔に見えた訳だ。
更に、後で確かめたのだが、一卵性だそうだ。
その日の放課後。
僕等は、また、強制的に、部室へと連行されていた。
部室内では、昨日あんなに喧嘩腰だったはずの、
グリーンとブルーとブラックの三人が、
満面の笑みで……ブラックは無表情だったが、神経衰弱をやっていた。
「……ここと………俺の記憶ではここだ！！！あぁ〜〜〜！！くそっ！！！」
「あたしの勘では…ここよ！！あぁ〜ん！！嘘よ！！」
「………ここと、ここだ」
と、そんな調子で黙って見ていたが、
ふと目に入った、昨日は無かったはずのホワイトボードに、
これまでの勝敗が記載されていた。
…いつからやっているのか、グリーン…３勝……ブルー…６勝……ブラック…２４勝……。
どうやら、実力の差は、歴然としている様だ。
そして、勝負がついた所で、僕等の存在に気づいた３人が挨拶をしてくる。
「レッド」
ブラックは、挨拶はしなかったが、
半分に分けたトランプを、黙って僕に手渡してくる。
彼なりの挨拶のつもりなんだろうか？
そして、相変わらず無言で、ホワイトボードに僕の名前を書き足す。
……レッド……と。
更に、しつこいくらいに無言で、テーブルと椅子を持ってきて、
僕に、座れとの意思表示か、彼は、何とも言えない怪しい笑みを浮かべた。
また刺されると、変えの制服ももう無いし、恵を心配させる事になる。
そう考えた僕は、言われるがままに、彼の目の前の椅子に腰掛けた。
「レッド、お前…スピードは知ってるよな？」
「知ってるけど…？」
そうは言ったが、一応とグリーンは、ゲームのルールを軽く説明してくれた。
スピード、１〜１３までの数字で、並び数字ならば、
上の数でも、下の数でも、記号は関係なく、素早く置いていって、手持ちの札が無くなった方が勝ち。
順番は関係ない……とにかく、カードを無くしてしまえば勝ち。
こんな説明でわかるだろうか？詳しく知りたい人は、トランプの本でも読んでくれ。
「レッド、行くぞ」
「いつでもいいよ」
そして、ブラックが「ＧＯ！！！」と声をあげ、ゲームが始まった。
結果は、０勝１０敗。
「レッド……俺は言葉も無い」
「信じられないわ！流石だわ！！！」
「………………」
ブラックが、真剣な目つきで、力強く人差し指を突き立てる。
「もういいだろう？もう１０回もやったんだから……」
だが、ブラックは、言葉を返す事無く、一度立てた指をしまいこむと、
同じ様に力強く、人差し指を突き立てる。
「以外やなぁ！富樫！アンタ、実は強いんやね？！」
「まぁ…ね、このゲームだけは、何故か前の学校でも一番だったから」
ブラックは、それを聞くとガクッと肩を落とし、トランプを片し始めた。
こう言っちゃ失礼だけど…あんまり強くなかった……。
と、それまで、それを黙って見ていた恵が、満面の笑みで僕の手を取った。
「やったね♪時夜！」
その笑顔は、本当に無邪気で、
本当に同い年とは思えないほど子供っぽく可愛らしいものだった。
……と、そんな時…。
「ガルディア！！大変だ！！！ドミニオンが現れた！！！！」
髪の薄い眼鏡の男が、乱れたスーツ姿で、部室のドアを勢いよく開け放つ！！
「あ……レッド、こちら、戦隊ヒーロー部の顧問、【須藤 章雄】（すどう あきお）先生」
「沙紀君！！！そんな、のん気に紹介してる場合じゃない！！！
中等部の３年生の教室に、ドミニオンが現れたんだ！！！」
沙紀のマイペースさに、須藤は頭を抱え、もがいていた。
そんな須藤の言葉を聞いていた、
由紀、グリーン、ブルー、ブラックの４人は、
僕等を置いて、一足早く部室から駆け出していった。
一番最後に部室を飛び出したブラックは、凄く丁寧にドアを閉めていっていた。
……意外と律儀な奴だ。
「沙紀、ドミニオンって、出現したらわかるのか？
見極めの力がないと、姿も確認出来ないんじゃなかったっけ？」
僕が、あわくった様子でそう尋ねると、沙紀は、冷静な表情で答える。
「走りながら話します！！とにかく…現場へ急ぎましょう！！！」
そう言うと、その、おしとやかな風貌からは、
到底想像出来ないほどの、豪快な蹴りで、扉を蹴り飛ばし、
そのままの勢いで、部室の外へと走り出していった。
「恵！！危険だからここで待ってろ！！」
僕は、恵の返事を待たず、大急ぎで沙紀の後を追いかけた。
かなりの速さで走っているのに、沙紀は、息一つ乱さずに話しつづける。
「ドミニオンにも、低級と上級が居ます。
上級のドミニオンは、姿も、気配も、見極めが無いと…全くわかりません。
でも、低級のドミニオンなら、見極めが無くとも、
彼等が力を発揮すれば、その姿を現すんです。
そして、それは誰の目でも、確認する事が出来るんです」
突き当たりの廊下に差し掛かったところで、
沙紀は、突然に足を止め、僕の前に手を差し出し、その動きを静止させる。
「もうすでに、数人の犠牲者が、出てしまったようです…。
富樫さん、私達は、表向きは、ただの特撮好きな集まりです。
ドミニオンと戦っている者として、正体を人に知られてはいけません。
だから、今ちょうど…人が居ないここで変身して、ドミニオンと戦いましょう！！」
「へ、変身って……」
僕は、恥ずかしい。そう付け加えようとした。
「大丈夫です！変身方法は簡単ですから！
まず、この時計型変身セットを腕につけます」
そう言うと沙紀は、僕の腕に、謎の赤い時計を装着させる。
「それで準備万端です。
では、こうやって腕をクロスさせて、自分の目の前にかざし…
【チェンジ・ガルディア・ピンク！！！】」
その叫びの後に、僕の目の前で、沙紀は、一瞬まぶしい閃光に包まれた。
そして、その光が消え去った時、趣味の悪い……とまではいかないが、
戦隊物のお約束のピンクスーツに、その身が包みこまれていた。
「さぁ！！富樫さんも！！！」
「え？あ、あぁ……」
もう引っ込みがつかなかった。
本当に最初の印象とは変わり、沙紀はおしとやかどころか、
押しの強いマニア色の強い、けどちょっと……いや、かなり可愛い女の子何だと……。
「あ、ちなみに、富樫さんのカラーは、言わずと知れたレッドですからね？」
「え、あぁ…うん」
僕は、左手を目の前にかざし、
一度深く深呼吸をしてから、目を見開き叫ぶ！！！
「【チェンジ・ガルディア・レッド！！！】」
突然に、僕の体の奥底から、燃え上がる心と、力。
そして、熱い魂を…果てしなく…深く…感じた！！！
正義の心をもって、戦わなくてはならないと言う心を！！！
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