- 「友情」
喧嘩して、仲直りして、また喧嘩して。
それでも僕達はずっと一緒だった。
出会った頃から不思議と色々気もあった。
同じものを好きになり…同じ人を好きになった。
二人で一緒に告白して、二人とも振られた。
二人で笑いあったり、二人で泣いたり。
これからもずっと親友だ。
それが僕等の友情の形……。
僕等の間には無言のプレッシャーの掛け合いが行われていた。
どちらが先に仕掛けるか…。
互いに自分の間合いを計算している。
「……ふっ」
一瞬、ブラックの失笑が聞こえた。
「うあああっ!!」
僕はそれを合図にでもしたかのように彼に切りかかる!
「…遅い…」
しかし、僕の一撃はいとも簡単に受け流され、
次の瞬間にはまるで剣の刃をすり抜けてきたかのような速さで、
ブラックの剣先が僕の眼前を抜ききっていった。
「…っ!」
「…避けたか」
何とか避けたはいいのだが…、
今ので僕は、完璧に体制を崩してしまっていた。
もうやられる!?そう思った…。
だけどブラックは、
そんな僕を見て大きなため息をこぼすと、
厭きれた様子で一言、言い放った。
「モタモタするな」
……どうやら僕が体制を立て直すのを、
待ってくれていた様だった。
「…へへっ、今の余裕後悔するなよ?」
「レッドも口だけは減らないな」
「行くぞ!!」
今度はブラックが僕の言葉の後、
勢い良く地面を蹴り、こちら側へと突貫してくる。
「ぐっ!」
「…後悔させてみろ…レッド!!」
そう言うとブラックは目にも留まらぬ速さで、
すさまじい連続攻撃を繰り出してくる!
「うぅ…!くそっ!」
今の僕にはこの攻撃をさばききることも出来ず、
かと言って、避けようと思ってもそれは不可能に近しい。
所々でさばきそこなった一撃が、僕の身体に傷をつけていく。
「レッド…もう何度死んでいるかわからないぞ」
「うぅ、うるさい!!」
必死で彼の攻撃を受け流そうと抵抗する僕だが、
そんなあがきも虚しく次々と傷が増えていくばかり。
今の僕にはたった一撃でさえ反撃を加えることもかなわないのだろうか…。
「ちくしょーーーーーー!!!!」
このまま負けてたまるか!!
僕はそう、やけくそで力を込め、
ブラックの剣を思い切りたたき返す!!
「ぬっ…」
すると、ブラックが体制を崩し、
ほんの一瞬だが反撃のチャンスが生まれた!!
「いまだ!!!!!!」
僕の切り上げが、見事に一撃でブラックの剣を弾き飛ばし、
そして……。
「へへっ……余裕がアダになっちゃったかな?」
ブラックの眼前に剣先を突きつける。
…しかし、ブラックはそんな僕を見て不敵に微笑んでいた。
「レッド、殺し合いと言うのは、相手に止めを刺すまで終わらない…」
「何だって?」
「今回は俺の負けにしておこう。レッドを甘く見た事もあったしな」
「…何か気に食わないな…」
僕が不満そうにつぶやくと、
ブラックは「ふっ」っと失笑を浮かべ、
そして、真剣な表情でこう続けた。
「もしも殺すチャンスがあったなら、次は必ず斬れ。
そうじゃなければ、レッド。お前がこれから先、生き残れることは絶対に無い」
「う……」
確かにブラックの言う事は最もだった。
もしこれが対ドミニオンだったんだとしたら、
僕が一瞬勝ち誇った余裕を見せつけた瞬間に、
確実に強烈な反撃を食らわされていたに違いないのだから…。
「まぁ、ここで仮に死んでも機械が停止するだけで、
本当に死ぬことは無いから安心するんだな」
「あ…何だそうなんだ…良かった…」
それを聞いた僕がほっと安堵の息をこぼすと、
ブラックは声をあげて楽しそうに笑っていた…。
(…こいつこんな笑い方も出来るんだな)
僕の中の彼のイメージが一新されたそんなトレーニングであった…。
それから、数日が経過し、
恵も無事退院してきたある日の事だった。
自宅で何気なく、テレビのチャンネルを変えていると、
そこに見たことのある人が映し出されたのだ。
恵もそれが誰かわかったのか、
心配そうに僕の方とテレビの方をチラチラと見たり着たりしている。
「……間違い無い…よな」
そこに映し出されていたのは、
決して見間違うことなどは無い。
僕の両親の姿なのであった…。
報道の内容はこうだった。
今世界的に信仰されている宗教、ヴァーチュズの教祖…。
世界を平和に導くドミニオンズにその命を捧げよ。
「…どう言う事何だろう…」
父さんと母さんが……。
自然を愛し、動物を愛し、人を愛し。
誰よりも命の大切さを知る二人が…。
僕に命の大切さを教えてくれた二人が……。
ドミニオンズの為に動いているだなんて……。
だけど、更におかしいことは、
政府がそんな宗教を認め、世界的に信仰せよと報道していることだった。
どうやら、事の真相を確かめる為に、
僕はまたあの町に赴かなければならないようだ。
そして、その考えを察してか、
僕が話をする前に、恵は僕の手を取りこう告げた。
「時夜、おいていこうとしてもダメだからね」
どうやら恵の心も完全に決まっていたようだ。
何を言っても彼女の意思は変わらないのだろう…。
「…二人で行こう。僕らが育ったあの町へ」
僕と恵は強く誓い合い、
そして理事長の元へと向かうのだった。
理事長もテレビの報道を見ていたのか、
待っていましたかのごとく、中庭にヘリをチャーターしておいてくれたそうだ。
僕等は理事長にお礼の言葉をつげ、
そんなこんなで中庭へとやってきていた。
「……で、何でお前等居るの?」
「え?いるの?言われてもなぁ?」
「そうそう、俺達正当にくじ引きで決まったんだぜ?」
「妥当なメンツだと思わへん?うちと隆二で」
何故か理事長が用意したヘリの中には、すでに隆二と由紀の二人が乗り込んでいて、
一緒に行く気満々で、人数分のお弁当まで用意して待っていたのだった。
「……どうなっても知らないからな」
僕がそうつぶやくと、
二人は声をそろえて同時にこう言ったのだった。
『お前が一番危ないんだっての』
と………。
僕ってそんなに頼りにならないリーダーなのだろうか?
何て思ったとき、
まるで僕の心を読み取ってしまったかのように恵が言った。
「時夜、頼りにしているからね!」
……どうやら、僕はまだあまり頼りにはならないみたいです。
そして、僕らが降り立った大地は、あまりにも何もかもが変わっていた。
ついこの間離れたはずの場所だったのに、もう何十年もの時が経過してしまったかのように。
誰も言葉が出なかった。
この光景は人間には理解することの出来ない。
暗黒の領域に踏み込んでいるかのような、そんな姿だったから。
「……街が……生きてる?」
建築物全てに命が、魂が与えられたかのような。
……彼等は生きていた。
「キタヨ…キタヨ……ルシファーサマニ、オツタエシナキャ…」
建築物は僕らを見つめそして…喋っていた。
「どうやら、俺達の行動は全部筒抜けみたいだな」
「そう、みたいだね」
「思ったよりしんどそうやで…」
隆二も由紀も決して表情は明るくは無い。
何を隠そう、僕自身もすっごい不安が突然に溢れ出して来ていたのだから…。
ふと後ろを振り返ると、
恵が心配そうな表情で僕の顔をジッと見つめていた。
「大丈夫…恵の事は僕が守るからね」
僕の言葉に恵はニコッと微笑んでいた。
「時夜、恵、いちゃいちゃしてる暇があったらさっさといくで」
そんな僕等を見て、由紀は不満そうにそうこぼしていた。
そして、ツカツカと怒り足で道を突き進んでいくのであった…。
「何アイツ不機嫌なんだ?」
隆二も由紀の態度に不思議そうにしている。
男組みが不思議そうにしているのに対して、
恵だけがクスクスと笑っていて、楽しそうに由紀の後に続いていった。
僕と隆二はよく意味がわからずに顔を見合わせていたが、
彼女達において行かれぬ様に、急いで後に続いて行くのだった。
僕等はまさに地獄の真っ只中にいるような気がしていた。
「ちぃ…!!」
1つ道を曲がればその度に僕等へと迫り来るドミニオンの群れ。
まるで地面かどこかからか湧き出て来ているのではないか?
そう思ってしまう程にその数は多い。
「きりが無いで!!」
次々と迫り来るドミニオンたちの群れに、焦りを隠せない僕達。
「恵に障るな!!!!」
僕は恵に襲い掛かってきていたドミニオンに一撃をかましてぶっ飛ばしてやった。
……こんな時に何だけど、僕も強くなっていたものだ…。
「時夜!!明らかにうちらが不利や!!いったん逃げるで!!」
「わかった!恵!こっちだ!!」
僕はひょいっと恵を抱え上げ、お姫様抱っこで走り出す。
「隆二もはよう!!」
「おぉ!」
僕等は兎に角走り、走りまくった。
もうどれくらい走ったのかわからない位に走った。
そして、その時僕等が立ち止まったのは、広大な海だった…。
「……赤い海だと……?」
「……プランクトンの異常発生…じゃないよね?」
「アホ…そりゃ赤潮や」
僕等は目の前のこの情景に目を疑うしか…無かったんだ。
超常現象としか言いようの無い、赤く染まった海を見て……。
と、それを見て固まっていた僕等三人を尻目に、
恵が突然に海に向かって歩き出していく。
「ちょ!恵!!!」
僕が慌てて追いかけると、
恵は来るなと言わんばかりに、
僕に向けて右手を突きつけてきた。
「……恵…」
僕は、それ以上に言葉を発することが出来ず、
彼女の気迫に負け、その場から一歩あとづさってしまう。
一体何をしようというのか…。
僕は黙って恵を見守る事しか出来なかった…。
波打ち際まで歩くと、恵は突然その場にしゃがみ込み、
そっと水に手を浸水させていく。
すると、彼女の指先から、
徐々に海の色が鮮やかな青へと舞い戻っていくではないか!
「なななななな!!!???」
「なんだってんだ!?」
隆二と由紀も驚きを隠せないようだった。
そりゃ、今確かに赤かった海が徐々にこう青くなっていけばね。
それから約数分で、真っ赤な海は琉球の青い海へと変わっていた。
「すげぇ……」
「これ奇跡とちゃうんか…?」
「恵…」
僕が呼びかけると、恵はすっとその場から立ち上がり、
ゆっくりとこちらへ振り返り微笑んだ。
「……魂の封印、血の洗礼、心を今解き放ちました」
「め、恵が喋ったで!?」
「と、時夜!!どう言う事だ!?」
慌てふためく二人だったが、
この声の響き方の違い…恵だけど恵ではない。
そして言葉を話しているにもかかわらず、全く動かない口元。
これは頭の中に直接話しかけられていると言うことだろう。
「ガブリエル……だね?」
僕が尋ねると、恵はニッコリと微笑んで頷いた。
今ガブリエルが恵の身体を借りて代わりに喋っていたのだ…。
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