「希望」



届かないかもしれない。

叶わないかもしれない。

もう誰にも、なしえないかもしれない。

だけど、必ず、希望をくれた。

唯一希望の星となっていく……。

君がくれた最高の笑顔。





僕等の目の前には見慣れたはずの姿の少女が立っていた。

「ガブリエル、どうして君が?」

僕が尋ねると、ガブリエルは意外そうな顔をして、こう答えた。

「私も皆さんの力になりたいと思ったからですよ」

「僕等の?」

「はい、この状況なら間違い無く皆さんは確認も儘なら無い内に、
命を落とす事になりそうでしたしね」

さらっと言い放つガブリエルだったが、
確かにその通りかも知れないと感じていた僕等は、
うつむき黙り込んでしまうのであった。

「皆さん、そんなに気を落とさないでください」

そういうガブリエルだったが、
気を落とす原因を作った本人にそんな事を言われても、
説得力の欠片も無いのは言うまでも無いだろう。

「あ、そうだ。当初の目的の時夜さんのお家に行ってみませんか?」

流石に気まずさに気がついたのか、
場をごまかすかのようにガブリエルは言ったのだった。

僕等は全員で一度顔を見合わせると、
互いの意思を再確認するかのように頷き合う。

「行こうか、僕の家へ……」

僕等はゆっくりと歩き出して行った……。



そこに辿り着いた時、
僕等は完全に言葉を失ってしまうのだった。

「……時夜、本当にこれで間違いないんか?」

僕は由紀の言葉にYESと答える事は出来なかった。
……こんな事、ゲームの中でしか起こりえないと思っていたから。

「う…ご…ぁぁああ…」

苦しそうにうめき声を上げる人々の姿がそこにはあった。
建物と一体化し、まるで生気でも吸われているかのように…。
「助けてくれ」彼等はそう声をあげ続けていた。

「ちぃ…どうなっちまってんだよ!」

隆二が悔しそうに舌打ちをし、ジッと建物をにらみあげている。

その気持ちは僕にも痛いほど伝わった。
目の前で苦しんでいる人がいるのに、助けてあげることは出来ない。
結局、僕等がやっている事はヒーローごっこなんじゃないのか…。

「時夜」

と、そんな時、僕の耳に聞きなれた声でそう呼ばれたのがはっきりと聞こえた。
振り返ることなくとも、姿を確認することなくとも、
その人物が誰だかは僕にはすぐに理解することが出来た。

「……父さん」

ゆっくりと声が聞こえた方向へと向きを変えていく。
そこには二つの影が優しい笑顔で微笑みかけてくれていた。

「……母さん」

懐かしい顔だった。
ほんの少しの時間しか離れていなかったはずなのに。
だけど……。

「時夜、ルシファー様の為にその命を捧げるのだ」

「時夜、ルシファー様こそ我々の全てよ」

全ては変わってしまっていたんだ!!!

「二人とも目を覚ませ!!」

僕の言葉が届いていないのか、
二人は微笑を崩すことなくその場に立ち尽くしている。

「ルシファーが何をしようとしているのか知らないけど、
その為に誰かの命を奪うことが正しいのかよ!!!
父さんと母さんは、僕に何があっても人を傷つけるようなことはするなって…!!
そう教えてくれたじゃないかよ!!!!!」

「時夜、過去の事など忘れなさい」

「今はルシファー様こそが全てなんだよ」

「父さん!!!母さん!!!」

「時夜さん、ダメです」

僕の肩を背後からガシッと掴み、
僕を少し後方へと下げると、
ゆっくりと二人の前にガブリエルは歩み寄っていった。

「ガブリエル…何を?」

ガブリエルは、こちらを振り返りニコッと笑うと、
父さんと母さんの額にそっと手を当てた。

すると、そこからまばゆい光が放たれ、
光が消えた瞬間、二人はその場に膝をつき倒れていた。

「なっ……!!!ガブリエル!?」

「大丈夫です、まやかしの術を解除しただけ…。
数時間で目を覚ますでしょう」

「まやかし?」

僕が尋ねると、「はい」と答えた後すぐに、
ガブリエルは僕の家の天井部のほうへと眼を移した。

「ルシファー様、そこにいるのなら姿を見せていただけませんか?」

ガブリエルがそう言うと、
ルシファーがゆっくりと天空より僕等の前に姿を現したのだった。



ルシファーの姿は、以前に僕と出会ったミシェイルの姿と差ほど変化は無かった。
ただ1つ、背中に大きな翼を背負っていること意外は。

「ガブリエル、流石だと言っておこう」

「お褒めに預かって光栄ですわ」

ガブリエルはそう言うとスッとルシファーに向けて手をかざし、
そのまま彼に向けて無数の光弾を打ち放った!!

ルシファーはそれをいとも容易く交わしている…。
外れた光弾は彼方此方へと着弾し、強大な爆発を起こしていた。

「あぶねぇー!!」

「あいつ何考えてるんや!?」

僕等はその弾が当たって崩れ落ちてきた瓦礫を、
必死で避ける位しか出来ないで居た。

そんな中、光弾を回避する為、空へと飛び上がるルシファー。
ガブリエルもすぐにそれを追いかけて飛び上がっていく。

「……愚かな」

「ガブリエル!!危ない!!!」

だが、僕が声を上げたときはもう遅かった。
ルシファーがガブリエルへ向けてかざした手のひらから、
強大なエネルギー波が放たれ、それが完全に彼女の肉体を包み込んでいたのだ。

「きゃあああああ!!!」

光が消えた時、彼女がまっさかさまに地上へと落ちてきているのが見えた。

それを見た僕は必死で駆け出し、
地面すれすれの所で何とか彼女を受け止めることが出来たのだが…。

「……気絶してるだけか…」

とりあえず生きていた事に安心し、
気絶したガブリエルを抱きかかえると、
僕は隆二の下まで歩いていく。

「隆二、由紀、恵とガブリエルの事頼んだよ…」

隆二に黙って彼女を託すと、
僕はガルディアへと変身を遂げ、
ルシファーの事を鋭く睨み付ける…。

「面白い、私とやるのか?時夜」

そう言って、ルシファーがゆっくりと地上へと降りてくる。

相変わらずの恐ろしい力の差を感じている。
とてもじゃないけど僕が敵う様な相手ではないだろう。
そんな事はわかりきっていた…。

「ルシファー、本気の僕が遊んでやるから、
こいつら雑魚は見逃してやってよ」

僕がそう言うと、隆二と由紀は二人声をそろえて「誰が雑魚だ(や)!!!」

と叫んでいた。……僕の気持ちに気づいてくれないのだろうか、
それとも単なる条件反射なのだろうか……。

「……ハハハ、時夜は面白いな。
良いだろう、そいつらは望み通り見逃してやる。
その代わり、貴様は逃げるなよ?」

その後ルシファーはスッと左手を天空にかざした。
すると隆二達の足元に緑色の輪状の光が現れ、
数秒後に彼等の姿はここから完全に消え去っていた。

「貴様等の学園の入り口に送っておいてやった。
さぁ、これで思う存分私と戦えるであろう?」

「へへっ、そうだね……お気遣い感謝しますよ」

僕は腰の剣を抜き、そしてルシファーへと切りかかっていくのだった…。




「恵!!」

時夜がそう呼ぶ声が聞こえた気がして、私は目を覚ました。
だけど、どんなに辺りを見回しても、時夜の姿は無い…。

「あ、恵?起きたか?」

私の目の前に居たのは由紀でした。

でも確か、私は時夜達と一緒に海まで行って…。
しかし、何故かその後の事が綺麗さっぱり思い出せない…。

今、私の目の前には、時夜を除いたガルディアのメンバーが勢ぞろいしていて、
そして、ここは学校の秘密基地、通称部活である事に間違い無かったんだけど…。

「時夜はどこにいるの?」

私はすぐ傍に居た由紀の手をとり聞いてみる。
だけど、由紀は私が何を言いたいのかわからない様子で…。

それはそうなんだよね…私は喋れないんだから…。

言葉が不自由な事はこんなにまでも不便なのだと。
時夜が居ない事で改めて再認識させられる。

「恵ちゃん!」

突然にそう声を上げた浩輔さんが、
私の方を見てニコニコと微笑んでいた。
そして何をするのかと思えば、
何故か手話で私に語りかけてきてくれたのです。

「恵ちゃん、手話は出来る?」

……私は別に耳が悪い訳じゃないけど、
言葉が不自由な事から確かに手話を多少なら扱う事が出来た。
時夜は幾ら親切丁寧に教えても中々理解してくれなかったけど、
お母さんとの会話の時にはよく用いていたものだ。

私はコクコクと頷くと、
浩輔さんにこう尋ねてみました。

「私はどうしてここにいるの?時夜はどこにいるの?」

浩輔さんは、私の発していたことを皆に代弁して伝えてくれて、
それに対しては、隆二さんが答えてくれました。

「時夜……死んじゃったのかなぁ…」

大樹君が寂しそうにそうつぶやく。
彼の気持ちもわからないでもない……。
私もそう思ってしまうし、現に時夜はここには居ないのだから。

時夜の居ない事に寂しさを感じているのは、
私だけじゃない…大樹君はお兄さんみたいに時夜を慕っていたし…。
そんな人が居なくて寂しい気持ち…。

私はそんな彼の元へと歩み寄り、
そっと抱きしめると、一緒に涙を流して泣いていたのです。
時夜の事は信じているのに……何故か涙が溢れて来ていたから…。

「時夜は絶対生きてるよ。俺が保障してやる」

私と大樹君の間に入り、私の涙をぬぐった隆二さん。
力強いまなざしでそう告げて、部室から出て行ってしまったのでした。

「隆二!!」

由紀が隆二さんの後を追い走っていく。
ずっと思ってたんだけど…やっぱり見てるとわかります。

由紀が隆二さんの事、凄く好きな事。
きっと本人は気がついてないと思うんだけど。

恋する女の子の気持ち、
私は凄く良くわかってるはずだから。

誰も二人の後は追いませんでした。

それが必要の無い事だろうときっと直感で感じていたのでしょう。

その日、二人は部活終了の時刻が過ぎても戻ってきませんでした。

どこへ行ったのかは誰にもわからないけど、
誰も心配してはいませんでした…。
だって、あの二人の事なんだから…。

ちょっと羨ましいなと思いながら、
時間も時間だし私は家に帰ることにしました。
いつも二人で帰る道を独りで歩きながら…。

1人で歩くと、いつもは狭いこの道も凄く広く長い。
そんな思いを抱きながら…。




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