- 「君を呼ぶから」
聞こえないとわかっていても。
傍に居ないとわかっていても。
心の奥から届けと願う。
私の想いが、届くと良いな。
何度も何度も、届けたい。
いつか呼び止められたとき、全部聞いてくれると良いな。
だからね、私、いつか君を呼ぶから。
それから、私達は行けども行けども変わらぬ景色を眺め、
随分と長い時間歩き回っていた。
「……あかん、あと1時間7分と38秒や…」
時夜を見つけ出す所か、
全く変わらない景色の中時夜のとの字も見つけ出せずにいたのです。
「お、あそこに誰かいるぜ!!」
「やったな隆二!これぞ天の助けやで!!」
と、そんな時に私達の視界の先にゆっくりとうごめく1つの影。
二人はその影にすがるようにして嬉しそうに走り寄っていきました。
なんだか嫌な予感はしていたけど、
手がかりが全く無い現状なら仕方ないかなと、
私も渋々と二人の後に着いていくのでした。
「なぁ、兄さん、この写真の男見んかったか?」
いつのまに手に入れたのか、
由紀は懐から取り出した時夜の写真を、
目の前の男の人に見せていた。
「………貴様等、本当に死者か?」
「はぁ?何言うてるの?ここに居るんやから死者に決まってるやろ?」
「ほぅ……その割には、地上界で貴様等の健康そうな肉体が眠っているがな」
「え?何でそんな事わかるん?」
「…貴様らには殆ど死気が感じられないからそうではないかと思っただけよ…」
「ってことは?」
「山を張っただけ…」
「……あかんやん…」
「……由紀、もしかして凄くヤバイ展開なんじゃねぇ?」
隆二さんのその言葉が合図となったのかのように、
突然にその男の背中から幾つ物触手の様の蔓が延びてきて、
二人の身体を一撃!強烈に叩きつけたのです!!
「う…いてて…平気か?由紀…」
「あぁ…ちょっと油断しただけや」
二人はゆっくりと立ち上がると、
男を鋭い目でにらみつけ、そして……。
「行くで!!!」
「おうよ!!!」
いつも体育館で練習していた変身ポーズをとるのでした。
「チェンジ・ガルディア・グリーン!!」
「チェンジ・ガルディア・イエロー!!」
二人は一瞬眩しい光に包まれたかと思うと、
その光が消え去った時にはお約束のスーツ姿に身を包んでいたのです。
……いつも練習だけを見ていた時には何とも思わなかったけど、
本番を見ると何だかそれは凄くカッコよかったです!!
「ぐぶぶ…そんなスーツを着た所で何が変わるか…」
男は再度、二人に触手ですばやい攻撃を繰り出しくる!
「甘いわ!!フローズンナックル!!」
繰り出された触手に由紀の拳が触れた瞬間!
それは、見る見るうちに凍り付いていく!!
「ついでや!クラッシャーシュート!!!」
その言葉の後、由紀は素早く男の懐にもぐりこむと、
強烈な回し蹴りをぶちかます!!
「げあああああ!!!」
物凄い爆裂音と共に、
由紀が蹴り飛ばした男の脳天がバラバラに砕け散ったのです!!
「……ちょっとグロい…」
なんて思っていたのもつかの間、
続いて隆二さんが攻撃を開始します。
「行くぜ!!サンダーアロー!!!」
彼の身体から、次々と稲光があふれ出し、
あっという間に全身を包み込んでいく!
「必殺!!サンダーダーーーッシュ!!!」
叫び声と共に物凄い速さで男に突貫して行き、
稲妻をまとった身体で超高速の体当たり!!
隆二さんの大きな身体の跡がくっきりと、
走り抜けた男の身体に残っているのでした…。
「バ…バカなぁ…下界の人間が…こんな力を……」
その声の後、男はドカーンと音をたてて、
特撮定番の雑魚怪人の様に消滅していきました。
「…本物の特撮を生で見たみたいで凄かった!!」
と、今までの人生に無いくらいの物凄い感動を覚えていたその時!!!
「何々!?」
私の足に何かが突然絡み付いてきたのです!!
「恵!!!!」
「げはははは!!甘いわぁ!!」
…それは、倒したと思った男の触手でした。
やられた振りをしてまだ彼は生きていたのです。
と言うか死者だから元から死なないのかな…?
私は逆さづりにされ、
何ともまぁ、よくある定番のつかまり方をしてしまいました。
「……同人誌じゃなくて良かった…」
「恵!!そんな事いっとる場合か!!」
確かに由紀の言う通りだった。
このままでは、私は辱められ…違う違う。
男に殺されてしまうに違いない…。
シリアスモードに突入しなくては……。
「時夜!!!助けて!!!!」
私は心から彼の名を呼んだ。
本当に助けてって思って。
……説得力は無いかもしれないけど、
本当は凄く怖いよ…。
…だけど返事は来ない。
辺りには私の声だけが虚しく響き渡る。
「げしゃしゃしゃ!!動くなよ!動くとこの娘が死ぬぞ!!」
男はそう言うと無数の触手のうちの一本を、
由紀に向かって繰り出す!!
「あぶねぇ!!」
…物凄く痛烈な音がした。
最初に二人が不意打ちで食らわされた時の音とは全然違う。
「隆二!!隆二!!!」
思わず目を閉じていた。
…そして開きたくなかった。
由紀の声を聞けば、どういう状況に陥っていたか想像出来たから…。
「何でアンタうち何てかばったんや…」
「へっ…テメーの惚れてる女を守るのは男の役目よ…」
「………アホ…こんな時に何言ってるんや!!」
「しゃしゃしゃ!!ならば何発耐えられるかな!?」
男はそういうと隆二さんに幾度にも渡って攻撃を繰り返す。
だけど、彼は何度食らわされても立ち上がり、
由紀を守るのです。
「死ね死ねぇ!!!」
あまりにもむごたらしくて、見ていられませんでした。
由紀が私を助けようとこちらへ踏み込めば、
男の攻撃が更に激しくなり、由紀の進路方向はふさがれてしまう。
…見ている事しか出来なかった。
彼が余計に酷い目に合わされてしまうだけだったから…。
でも、そんな隆二さんもいつしか全く動かなくなってしまいました。
まるで、生涯義経を守り続けた弁慶の様に、
彼は仁王立ちのまま意識を失ってしまっていたのです。
「……アホ隆二」
悔しそうに拳を握り締める由紀。
しかし、この男はそんな隆二さんを見て怪しく微笑み、
そして続いて由紀に攻撃を開始する!
「死ぬがいい!!」
男が繰り出した攻撃は、
由紀のお腹にめり込むようにして入り込み、
彼女は数メートル殴り飛ばされ、
そしてむごたらしく地面へと落ち、
それと同時に変身も解けてしまったのです。
「由紀ーーー!!!」
あまりにも無残で、何も出来なくて…。
涙が止まりませんでした。
「ぎゃはははは!!殺してやる!!
そして俺様が貴様等の肉体を戴いて復活するんだぁ!!」
……私は戦えない…でも、戦える二人はもう動けない……。
「このままじゃ……」
全滅……脳裏にそんな言葉が過ぎった時だった。
「ライトニングブレード、装着」
男の背後から静かに声が聞こえた。
「ぎしゃあ!!誰だ!?」
男は慌ててその声の元に振り返る。
だけど、もう遅かった……。
「サテライトキャノン、発射!!」
辺りがまばゆい光で包み込まれていく。
光の強さにのあまり、目をあけていることすらままならない位に。
「ぎああああああ!!!」
男のおぞましい声が聞こえた。
だけど、恐怖は無かった。安心して目を閉じていられた。
もう、大丈夫。心からそう思えるから…。
「…時夜、私…待ってるからね」
私がそう告げると、由紀と隆二さんの身体が静かに消えていった。
きっと、夜明けが来たのだろう。
「待ってるから…」
そして、私の身体も静かに消えていくのだった……。
ゆっくりと目を開けると、
心配そうに私の事を呼ぶ沙希さんの姿がそこにありました。
「あ…起きた…良かった…。
朝来たら恵さん1人倒れてから何があったのかと…」
……私1人?そんなに長い時間私は気絶していたのか…。
でも、由紀と隆二さんの姿はどこにも見当たりませんでした。
「あ、私花瓶のお水替えてきますね」
沙希さんは凄く楽しそうにスキップで部屋を出て行った。
そんなに良い事があったのだろうか?私にはいまいち検討が…。
「あ…時夜!?」
ハッと思い出して顔を上げると、
ジッとこっちを見つめている彼の姿があった。
「おはよ、恵」
時夜は…笑った。
あの時の嫌な笑顔じゃなくて、
私の知ってる優しい顔で。
「待ってるって自分で言ったのに…寝てるなんてなぁ」
少し寂しそうに苦笑する時夜。
それに対して私は、彼の手をとりこう告げた。
「果報は、寝て待て!だよ?」
私の言葉に、時夜は数秒目を丸くしていたけど、
ニコッと笑い、私の頭に優しくポンっと手を置いた。
「ただいま、恵」
「おかえり、時夜」
私達は静かに微笑みあうのでした。
その後、時夜に色々と話を伺ったところ、
どうにもこうにもいまいちよく覚えていないらしい。
目が覚めたら見た事のない世界。
いわゆるあの世とこの世の境をさまよっていて、
当ても無く歩き回っていたところ、
道行く彷徨う魂に自分が死んでいると教えられ、
生き返る方法も半ば無理やりに聞かされた。
だけど、どうにもこうにもそんな気力がも無くフラフラしていた所、
私達に呼ばれた様な気がして、
何となくそっちだと思った方角に行ってみたら、
あの怪物に出くわして、つかまっていたのが私だったからとりあえず倒してみた…と。
「でもまぁ、自分がまだ必要とされてるんだなって、
例え幻覚でも恵を見たんだから生き返りたいって思ったわけさ」
「へぇー…でも、不思議な事もあるものですね」
「まさに、007は二度死ぬって言う奴ね♪」
「…浩輔、それじゃあ時夜はもう一度死ぬって事に…」
「あら?それもそうね…」
「ははは、まぁ、次死ぬ時は寿命で死にたいよ」
…時夜はあの世とこの世での記憶が曖昧で、
夢を見ていたのか現実だったのか。
はっきり区別がついていないみたいだった。
私が起こしにいったのに!と言いたかったけど、
時夜が無事生き返ってくれた事で私は嬉しかったから。
だから、黙って私は時夜の手をとった。
「まぁ、幸い傷も無いし、明日からまた復活出来そうだよ」
そう言う時夜は凄く楽しそうだった。
…行方不明だった間の記憶も一切無くしていたからかもしれない。
その間何が起きたのかわからないけど、
変貌を遂げた彼の姿……。
誰も、私以外は知らない。
みんなが駆けつけた時、私達は二人とも気絶していたらしいから。
……私も戦う力が欲しい。
大切な人を守るためにはきっと、必要になるから。
そんな事を思わさせられる、あの世ツアーなのでした。
「…あれ?恵、右手が……」
時夜に言われてふと自分の右手を見やると、
なにやら青白い光がぼんやりと現れていました。
「やぁー!何これ!?気持ち悪いーーー!!」
淡くってぶるんぶるん手を振ると、
その光は段々と球状に形を作っていき、
突然に私の手のひらから飛び出してしまう!!
弾は壁に激突し、そして…巨大な風穴を残して…消えていた。
「……今のってまさか…ガブリエルやルシファーの技…?」
時夜は今の私の奴に、「今のどうやったの!?」
と、凄く興味心身だったけど、
他の三人は完全に口をあけたまま固まっているのでした。
……どうやら、いつのまにやら戦える特技を身に着けていたようです。
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