「輝く時」



頑張ってる時。

一生懸命な時。

笑ってる時。

泣いてる時?

君が一番輝く時。

僕も一緒に輝けるかな?





次の日、休日だと言うのに、
戦う力が欲しい!
と、言い出した恵に付き合い、
朝から二人で必殺技を考えていた。

「…あまり無理しない方が良いと思うんだけどなぁ…」

僕がそう言うと、恵はブルンブルンと首を大きく横に振る。
何が彼女を突き動かしているのかわからなかったが、
兎に角何でも良いから必殺技を何か1つ身につけたいと言うのだ。

「必殺技ったって…僕だってそんなに色々持ってる訳じゃないし…」

と言うか僕自身、必殺技として身に着けているのは、
由紀が標準装備でついていると言った武器のものだけ。
特別自分で編み出した技など無い。

…そう考えると、
僕って意外と凄く地味に戦っているんじゃないのかなと思ってしまう。

今までの戦いを思い出してみれば、頻繁に技を色々と繰り出すのは沙希と由紀の二人だ。
例えば沙希なら、「グランドクロス」「グランドレイブ」「グレネードソード」等など…。
由紀だと「フローズンナックル」「クラッシャーシュート」「リボルバーキャノン」等など…。

もっともっと色々と使っていた気もするが、
瞬間的に思いつくのでも三つも四つも浮かんでくる。

そして、そんな僕の必殺技と言えば、
ライトニングブレードに付着しているサテライトキャノンと……それしかない。

威力は確かに凄いけど、毎回毎回同じ技で決めるのも味気ないと言うもので。
どうせだから「ライ●ーキック」とか、「スペシ○ム光線」とか…。
そう言うちょっとカッコいい系統の技を使ってみたいものだ。

「スイマセン、富樫さん、河野さん」

と、考え込んでいると、背後からどこかで聞いた事のある声が聞こえてきた。

「あれ?…君は、放送部の…皆川さん…だったっけ?」

「はい、覚えてていただいて光栄です。昨日はどうも大変失礼いたしました」

そういうと、彼女は深々と僕等にお辞儀をする。
…ついついつられて僕等もお辞儀を返していたのは言うまでも無い。

「実は、昨日あれから色々と皆で話し合いまして、
ドラマの台本を思い切って改正したんです。
それで、是非もう一度戦隊ヒーロー部の皆さんとお話しがしたくて……」

皆川部長はそう言うと黙って僕に台本を差し出してくる。

僕はその台本を受け取ると、まずは、一番の問題点だった配役表に目を通す。
……河野 恵、今度は間違い無く記載されていた。

「僕達あれから理事長に色々と貴方達のお話を伺ったんです。
そうしたら恵さんは手話が使えるとの事で…。
そこで考えたんですが、手話に合わせて文字を振っていけば、
何の問題も無く上映出来ると言う事に気がついたんです」

そして、彼女は恵の目をじっと見つめ、
真剣な表情で更に続ける。

「本当にごめんなさい、
河野さんだけをのけ者にするようなやり方をしてしまって…」

申し訳なさそうに何度も頭を下げる皆川部長。
恵はそんな彼女の肩をポンッと叩くと、ニコッと笑って返してあげていた。

「……あ、ありがとうございます!」

そう言った皆川部長の顔は、半泣きなのであった……。

正直言って、僕にはその放送の大会がどんなに大事なものかはわからなかった。

でも、ただ単純に、この部長さんを見ていて僕は思ったんだ。
一生懸命やっている奴に協力して、みんなで何かを作り上げるのもきっと悪くない。

「部長さんさ、明日日曜日だけど予定空けれる?」

「え?あ、あけれますよ?」

「んじゃ、明日から早速撮影に入ろうか?
メンバーには僕から連絡しておくから」

ちょっと、真面目にドラマを作ってみたいと思ったんだ。

「あ、ありがとうございます!!」

こうして、放送部監督演出による、
ガルディア奮闘期が撮影される事が決まったのだった。



「カーット!!!」

僕達はその日の朝から早速撮影に奮闘していた。

「はーい、皆さんそれじゃお昼休憩にしまーす」

『うわーい』

だが……甘かった。正直僕は甘かった。

「…まさかここまでやるとはな…」

「学校主催のドラマと甘く見てたわ…」

「流石あの理事長っつーこっちゃな」

一体何が流石なのかと言うと、
メイク道具からアシスタントスタッフ、タイムキーパー、特殊効果。

兎に角色々全部含めて本物の特撮、
いやハリウッド映画並のセットがあり、
本格的に素人の僕らを振り回してくれるのだ。

勿論、スタントマン等は…いない。
下手なスタントマンより僕等の方が全然動きが優れているから。

ワイヤーアクション?何だそれ?
そんなレベルで飛び交ったり走り回ったり…。

準備やセットの時間が少なくてすむため、
撮影は意外とスムーズに行なわれていた…。

「何で私がそんな事しないとあかんのや!」

……由紀の標準語と普段のなまりの混じり台詞を除けば…。



それから、次の日のことだった。

「うーん…どうにもしっくりきませんね」

戦闘シーンの撮影中に不満そうにこぼす部長聖。

敵役の放送部員の頭を丸めた台本でぺしぺしと叩いている。
その姿は本当に映画を撮影している偉い監督を真似ているだけで、
説得力と言うか威厳と言うかそう言うものはあまり無い。

「やはりリアリティーを求めるにはあれしかありませんね」

そう言うと聖は僕等全員に収集の合図をかけ、
満面の笑みのまま、僕等に対し、
彼女はとんでもない一言を告げてくれた。

「本物のドミニオンと戦っているシーンが撮りたいんです!!」

…普通に考えてみよう。
もし、僕等がどこにでも居る一般生徒だったとしたら…。

彼女の発言は僕等に対して死んでください。
と言っているようなものである。

他のメンバーはこの発言に対してどう思っているのだろうか?
そう思い様子を伺ってみると、
皆が皆目を輝かせていたのは言うまでも無い……。

「そんな都合よく現れてくれるのかなぁ…」

と、出来ればこないでくれと思いながらつぶやいた時、
突然に校内から頭が痛くなるほどの痛烈な叫び声が聞こえてきた。

「凄い!僕の想いが通じたんですね!!」

嬉しそうに叫ぶ聖。
非常識なのもいいところだと思うが彼女の撮影魂からか、
そういう気持ちを呼び起こさせるのであろう。

「物陰で着替えてくるからちょっと待っててくれ!!」

僕は彼女にそう告げると、
メンバー全員を強引に引き連れ、
物陰で問答無用でガルディアへと変身をさせた。

幾らガルディアメンバーが実力者だといっても、
生身の身体でドミニオンとぶつかりあう事は危険すぎる。

見るも無残に北斗の●の様に、
頭が爆発したり身体が破裂したりで殺されてしまうだろう。

「……カメラついて来い!!」

僕は放送部員にそう促すと、
外からでも感じられるほど気配が乱れている所を目指し駆け出していった。



現場に辿り着いた時、
まるで僕らを待ち構えていたかのようにそいつはいた。

背中に巨大な剣を背負い、どっしりと構え、
明らかに僕達に向けて殺気を放ちながら。

「どうやら、今までの奴らとは違うみたいだね」

ドラマの撮影の為の戦い。
…なんてそんな余裕は一瞬にして僕等の前から消え去っていたのだった。

「我が名はラファエル。ルシファー様に仕える者…」

彼が剣に手をかけた時、
僕等の間に一筋の風が駆け抜ける。

「レッド!!」

みんなの声が聞こえた…。
だが、それは遅く、気がついた時僕の視界は180度回転していた。

そして、ラファエルの放った一撃で完全に吹き飛ばされた僕は、
重力に逆らう事は出来ず、そのまま顔から地面に落ちる。

「あいててて…」

軽い痛みを感じながらも頭を抱え起き上がる。

相変わらず有り得ないほどにダメージはない。
それを知ってか知らずか、
顔を上げるとラファエルがすでに僕の眼前へと迫ってきていた。

彼が振り上げた剣をギリギリの所でかわすと、
僕は慌ててメンバーに号令をかける!!

「みんな散れ!!!」

そして、僕の声に答えることなくメンバーは周囲に散開し、
一瞬にしてラファエルを取り囲む体制をとる。

「行くぞ!!ライトニングブレード、装着!!」

「サンダーアロー!!」

「フローズンナックル!!」

「グランドブレード!!」

「フレイムカッター!!」

「ダークネス…アクス!!」

そして一斉に武器を装着し、
そして皆で同時に攻撃を開始する!!

「フォーメーションクロスだ!!!」

フォーメーションクロス、上下左右、
隙間無く相手を完全に囲んだ状態で攻撃を仕掛ける体制。

通常ならこれから逃げ出す事は相当に難しい…。
どんなに強者だとしても、全てに全方向をなぎ払うなど不可能な筈だから。

だけど、僕等は吹き飛ばされた。
一人、では無く全員が。
気がつけば皆が皆、地面にひざをついてしまっている。

剣に触れることなく、
彼が回転して巻き起こした剣の風圧のみで…。

「っ…全然実力が違うぜ…」

「これが上級の強さなのか…」

僕らを見て、ラファエルはただ黙ってにやついている。

「やはり、まだまだ赤子の手を捻る程度でしたか」

…そんな時、頭の中にそう響き渡った。
何度か聞いた事のあるこの声、それは彼女以外には有り得ないであろう。

「ちょ…!!恵さん!!危ないですよ!!」

聖があせった様子で叫んでいる。
そちらに振り返ってみると制止する聖の手を払いのけ、
こちらに向かって突き進んでくる恵の姿があった。

「ラファエル、お久しぶりね」

ツカツカとラファエルに歩み寄っていく…ガブリエル。
彼女が目の前に立ちはだかるとラファエルは静かにその場に跪く。

「ガブリエル様、お元気そうで何よりです」

「…いやみ?」

「滅相もございません!」

彼の言葉にガブリエルは楽しそうに笑い声を立てていた。

「ラファエル、ルシファーの命で来たんでしょうけど、
今日は私に免じて帰ってもらえないかしら?」

その後に「さもないと…」と付け加え、
彼女が静かに差し出した手のひらから青白い光が音も無く現れる…。

ラファエルは、数分その場で黙り込んでいたが、
巨大な剣を鞘に収め立ち上がると、静かに背中のマントを翻した。

すると、その場から彼の姿は跡形も無く消え去っていたのだ…。

「……ルシファー」

ガブリエルがそっと告げると、まるで魂でも抜けたかのように、
恵の身体は突然にその場に倒れこむ。

「恵!!」

あわてて駆け寄り抱き上げると、
恵は静かに寝息をたてていた…。

「…と、富樫さん!!物凄い映像が撮れましたよ!!」

驚きと喜び、二つの感情を合わせたような声で聖が僕の元へとやってきていた。

「…わかっただろ?これが奴等の恐ろしさだ」

恵を抱えあげると、僕は静かにその場から立ち去った。




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