- 「力」
力こそが正義。
何を求めれば良いのだろう。
逆にそれが全てを壊す。
そんな気がする。
だけど、求めずには居られない。
…力がほしい。自らのために……。
表にたどり着くと、
ビニールシートを広げてくつろぐガブリエル達の姿があった。
「…何くつろいでるんだよ…」
「何でって…なぁ?」
「まぁ、それくらい俺達は暇だった…と言う訳だ」
僕の問いかけに顔を見合わせ頷き合う男二人。
しかしそう言いながらもどこからか持ち出した、
お茶菓子を食べる手がとまることは無かった。
「そういや、浩輔のやつはどうしたんだ?」
口いっぱいにクッキーやら何やらを詰め込んだまま隆二が言う。
「ちゃんと飲み込んでから話してくれ…」
明らかに不機嫌そうに答えると、
隆二は豪快に食べかすを飛ばしながら笑い、
「細かい事気にすんなよ!」と、僕の背中をバシバシたたいてくれた。
…絶対細かいことじゃないと思ったのは言うまでも無い。
「…で、浩輔だけど…」
と、僕が口にしようとしたその矢先。
「おっまったっせー!!!」
僕等の背後から浩輔のハイテンションな声とともに、
身体の奥底まで届いてきそうな重低音が同時に耳の中へと飛び込んできた。
「きっちり、取り返してきたわよ!」
振り返ると、満面の笑みで親指を突き立てる浩輔がそこにいた。
太陽の日差しを背負い微笑む彼の姿に、いつものオカマ臭さは無い。
「オペラー!!!」
が、そんな彼の事など目に止まりませんと言った様子で、
バイクから浩輔を叩き飛ばすと、
物凄く嬉しそうにバイクに頬擦りする沙紀が居たのは言うまでも無く…。
「あたし、頑張ったのに…」
そして、叩き飛ばされた浩輔は、
音も無く起き上がり、地面にのの字を書きながらいじけていた。
…そのじめじめした姿は、正しくいつもの浩輔そのものだったのだが…。
「……さて」
お茶をすすりながら僕等の様子を黙ってみていたガブリエルが静かにつぶやく…。
「とんだオマケも連れて来てくれたみたいですね」
彼女が一点に見つめる視線の先に視線を移すと、
そこには背に暗黒の翼を背負った一人の白衣の男の姿があった。
「ガブリエル様、こんな形で再会するとは…少々残念に思います」
男が放った言葉は冷たく、
そして感情と言う色を持ち合わせていないように感じられた。
「臭い臭いとは思っていたんですが…やはりルシファー様だったのですね」
手に持っていた茶碗をゆっくりと地面に下ろすと、
ガブリエルはその男の下へとゆっくりと歩み寄っていく。
「……相変わらず、勘の鋭いお方だ。
まぁ、意外と進んでいる人間達の技術を利用するのも面白かったですよ?」
それほど大した会話はしていない。
けれども、僕達は一歩もその場から動くことができないで居た。
彼等から発せられているそのオーラが、
明らかに人間が持っているものとはかけ離れていたから……。
「クラヴィス、貴方はここで何を研究していたの?」
「さぁ?それはいくら貴方様でもお教えする訳には…」
クラヴィス、ガブリエルがそう呼んだ男はいやらしい微笑を浮かべ、更に言葉を続ける。
「まぁ、どちらにせよこの場で死ぬんですから関係無いんですがね」
そう言った後、クラヴィスが両手を物凄い勢いで振るった!!
「……ちぃ!!」
だが間一髪!!その攻撃をかわしたガブリエルは空中へと舞い上がる。
「避けましたか!!流石ガブリエル様!!」
クラヴィスもそれを追いかける様にして地面を蹴り上げ天へと上る。
「貴方程度の力では私に傷ひとつ負わせられませんよ!」
ガブリエルがクラヴィスに向けてかざした手のひらから無数の光弾が連続で放たれていく!!
「すげぇ!ガブリエルもすげぇがそれを全部避けてるあの野郎もすげぇぞ!」
かなりの速さで宙を飛び交うその弾、
しかし全てを避けきるクラヴィス。
「クラヴィス!私が本気を出す前にこの場から去りなさい!」
「ははは……流石ガブリエル様、お優しいお言葉…。
しかし、貴方が本気を出す事は無いのですよ」
…刹那!クラヴィスの表情が変わり、
僕達の耳には金切り音がとどろいていた。
「恵……!!!!」
それは、ガブリエルの悲鳴だったのだろうけど、
いつも聞きなれた恵の声にしか聞こえなくて、
僕はその名を叫んでいた。
地面に数的滴り落ちた赤い液体。
そして、落下する大きな塊。
物凄いスロースピードに見えたけど、
手を差し伸べても届かなくて、
それは衝撃音と大量の砂煙に隠され、消えた。
煙が晴れた時、
血に染まった彼女が、そこには落ちていた。
「恵ちゃん!!」
「恵!!」
慌てて駆け寄る仲間達。
しかし、僕はそうすることは無く、
ただゆっくりと空に向けて視線を動かしていた。
先ほどまでそこにあったのは2つの影。
その内1つが今僕等の目の前に落ちてきた。
でもまだ…二つの影が空にある。
どこからやってきたのか、
突然に現れたもう1つの影が背後からガブリエルを切り裂いたのだ。
「いやぁ〜、しかし流石ガブリエル様だ。
確実に殺ったと思ったのに…ギリギリで急所を避けるとは…」
声の後、二つの影はゆっくりと僕の前に降り立ち、
「ククク、今度は君が遊んでくれるのかな?」
いやらしい微笑を浮かべている。
2つの見た目は全く同じものだった。
まるで鏡にでも映したかのように。
だが、双子ともまた違っている。
気配が全く同じだから……。
「クローン、ですね」
いつのまにやら僕の周りには、
恵を介抱する隆二を除いた全員が集まってきていた。
「禁止されたものを使うなんて、関心しないで?」
皆表情に変化は無かったが、
あからさまに放たれる怒りのオーラが感じとれた。
「勝ち目の無い戦いなのかもしれないが…」
「仲間をやられて黙ってられるほど温厚じゃないのよね」
そして、言葉の後、みな変身を遂げていく。
「例え倒せなくても…僕は絶対に倒されない」
僕は、変身用の時計をゆっくりと目の前に掲げた…。
力強く地面を蹴り、僕はクラヴィスに向けて駆け出して行った。
視界に映るのは二つの影。
こういう時、どちらかひとつを選ぶのに迷いが生じたりするのだろうが、
僕が目指していた先はただ1つ、恵を傷つけた奴。
「くそったれーーーー!!!」
だが、瞬間に鞘から解き放たれた剣は空を切り、
勢いあまった僕はそのまま地面に顔から倒れこむ。
「うべっ!!」
物質がうごめいて行った先は空、
倒れながらも見逃さないよう視線だけは奴を追いかけていた。
男は僕を見下ろし不敵な笑みを浮かべている。
「…お前誰なんだよ!!」
そこにいるのが何か、僕には認識できていたはずなのに、
口から出ていた言葉はそれだった。
クラヴィスは答えることなくただ笑っている。
「っちくしょう!!」
すぐに立ち上がりもう一人に切りかかる。
が、それも容易く避けられ、
またも同じように天へと逃れていく。
「ハッハッハ、その程度か」
全く同じ顔が全く同じ声で同時に笑い声を上げた。
…まるで幻覚でも見ているかのような感覚にとらわれるが、
戸惑っている暇などない…。
剣を一度鞘に収めると、僕はすぐに銃を手にした。
そしてただひたすらに引き金をしぼる。
放たれた弾丸は当然のように避けられてしまったが、
天空へと突き抜けていったそれ等に、
なんだか活路を見出せたような気がした。
確信は無かった。
だけど、何かが僕に戦い方を教えてくれているかのように。
僕の身体は動き出していた。
周囲を見渡し状況を再度把握する。
恵を介抱している隆二を除く全員が僕の周りを囲ってくれていた。
一人じゃない。
これほどに力強いことは無かった。
「みんな!今から指示を出す!その通りに動いてくれ…!!
必ず奴を倒せるから!!」
仲間達は黙って僕の言葉にうなづいてくれた。
「ピンク、ブルー、イエローは左を!ブラックと僕で右を潰す!!
フォーメーションはフラッシュだ!!」
「了解!!」
瞬時に拡散し、皆各々に武器を手にしクラヴィスを睨み付ける。
「ブラック!!僕を飛ばせ!!」
「了解だ!!」
僕がブラックの肩に飛び乗ると、
ブラックは空に向かい高く舞い上がる!!
そして、頂点に達した時、
僕はブラックを踏み台にし、そこから更に高みへ飛ぶ!!
「クラヴィス!!!」
僕はクラヴィスの居る天空へとたどり着く。
「……ちぃ」
すると二人のクラヴィスは慌てた様子で、
急いで僕から距離をとろうする。
「食らえ!!!」
だが、離れていく彼に対して僕は剣を投げつけた。
「ぎゃああ!!」
剣はクラヴィスの片翼を貫く!!
翼をもがれたクラヴィスは、
地面に向かってまっさかさまに落下していった。
「相棒!!」
心配そうに声を上げるもう一人のクラヴィス。
…でも、僕には躊躇している時間など無い!!
「お前も…落ちろぉ!!」
空中で無理やりに姿勢を変えると、
もう一人のクラヴィスのほうに向け、
銃の引き金をがむしゃらに引きまくる。
「ぐええ!!」
銃から解き放たれた無数の弾丸は、
クラヴィスの翼をバラバラに砕いた!!
そして、もう一人のクラヴィスも地へと落ちていく。
…勿論、続いて僕も落ちていく…。
まぁ、色んな意味で高いところからはもう落ちなれたけど…。
全てのものが地へと足をつけた時、
戦いの幕は正式にあがっていった…。
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