- 「大金持ちと貧乏人」
私は、男が置いて行ったたいまつを使い、
街道沿いを真っ直ぐに歩いていた。
「日が昇ってきてるよ…」
それからどれ位の時間がたったのかはわからなかったけど、
朝日が昇る頃、私の視界の先には巨大な建造物。
と言うか、多分、ノスト城が見えてくる。
「あ〜…疲れた!」
違うにしろそうだったにしろ、
城が見えたことにより確実にあるであろう宿屋に対しての喜びがこみ上げてくる。
「ふかふかのベットに暖かい食事…寝るぞー!!」
背伸びをしながら思いっきり叫び声をあげる私。
「あ、ご主人様〜遅かったですね〜心配しましたよ〜」
するとその直後に背後からぷりんの間の抜けた声が聞こえてくる。
振り返ると満面の笑みで私を迎え入れてくれていた。
…その顔には真っ黒で巨大なクマが出来ている。
一睡もせずに待ってくれていたのだろうか?
結構かわいいところもあるんだなとこいつの事をちょっと見直した。
「えいっ!」
嬉しさがこみ上げまくってきていた私は、
思わずぷりんの奴をギュッと抱きしめる。
「わわ!どうしたんですか!?ご主人様!!苦しいですよ〜」
少し照れくさそうに言っていたが、
そんな事お構い無しに私は抱きしめる腕に力をこめる。
「うるさいなぁ、ちょっと黙ってこうされてなさいよ!」
「は、はひ…」
…力を込めすぎたのか、
徐々に白いぷりんの身体が青く染まっていく…。
「じぬ…」
「あ…ごめん!ついつい…」
淡くってぷりんを解放すると、
しんどそうに数回咳き込むぷりん。
「はうぅ…ご主人様と居ると命が幾つあっても足りなさそうです…」
「たはは…」
だけど、そういうぷりんは優しい笑顔を浮かべていた。
一人で迷子になっていた私の気持ちを察してくれていたのだろうか?
とにもかくにも、そのおかげもあって私の心はすっかり安定を取り戻していた。
「それでは、宿屋に向かいましょうか」
「あ、ぷりん!」
「はい?なんですか?」
「紅の魔女って知ってる?」
「…え?何ですかそれ?」
「あ、それなら良いんだ…」
ふと思い出したあの言葉を尋ねてみたのだが、
ぷりんは何のことだか全く知らないと言う様子だった。
何がどうしてそう呼ばれたのか、
あの男の異常なまでの怯え方…。
おまけに、川で見た赤い髪の自分。
何だかよくわからないあの気持ち悪い感覚…。
私の中でいったい何が起こっているのだろうか?
ぷりんに尋ねれば何かわかるかもしれない。
そう思いつつも不思議な恐怖感にとらわれていて、
私は一言も言葉を発することは出来なかった…。
「今日はとにかくゆっくり休んでくださいね」
沈み込んでいたように見えたのだろうか?
心配そうにぷりんは私の顔を覗き込んでそう言った。
「…うん、ありがとう。…ぷりんもね?」
「はい、休養は大切ですからね」
何だか腑に落ちない気持ちだったが、
とにかく今は疲れた身体を休めたくて、
私は黙ってぷりんの後へとついてくのだった。
目が覚めた時、異常なまでに身体は軽かった。
運動不足だから筋肉痛だったりするんじゃないかとも思ったけど、
それとは逆に空をも飛べそうな位に身体は軽く目覚めもいい。
「ふぁー…でもちょーっと寝すぎたかな?」
太陽は丁度頭の上にあり、
外は沢山の人達の声で賑わっている。
時間はちょうどお昼と言ったところだろうか?
と、その時、豪快に私のお腹の虫が鳴いてくれた。
誰にも聞かれていないとわかっていても流石にこれだけの音が鳴ると恥ずかしい…。
「………ご主人様」
だが、僅かに開いたドアの向こうから、
ぷりんが顔を出しているのが見えた。
「…聞こえた?」
「もう、ばっちり」
「今度からノックくらいしなさいね?」
私は不動の笑顔で指を鳴らしながらぷりんに迫っていく。
「いやぁーーーーー!!!!」
まるでムンクのような悲鳴を上げたぷりんだったが、
数秒後には頭から煙を立ち上らせ声さえも発せられない状態になっていたのは言うまでも無い。
その後、1時間ほど並びやっとの思いでレストランに入れた私。
前日全く食べていなかった事もあり次から次へとかなり軽快に食材が口へと飛んでくる。
「う〜〜〜ん!おいしい!」
…それから、私はものの数十分ほどで30人前のご飯をあっというまにたいらげていた。
相当お腹が減っていたのもあるのだろうけれど、
魔法を使うと普段の数十倍お腹が減ると言う説も嘘では無さそうだ。
ちなみに、その豪快な食べっぷりにリードとぷりんが、
唖然としていたのは言うまでも無い。
「じゅ、15万ゴールド丁度になります」
店員も人数の割りには相当に値段がかかっている事に驚いているのか、
それとも私が食べていた姿を見て驚いているのか。
どちらかと言えばこちらに目線が来ていたので、
後者のほうなのだろうと思われる。
…レディーに対して非常に失礼な店員だ。
「ねぇ、リード。私お金無いよ?」
「僕も一銭も持ってません」
「え、そうなの?」
リードはその後に言葉を続けることなく、
15万もの大金をさらっと全部出してくれた。
「じゃあ、行こうか」
そしてこちらに向けて爽やかにニコッと笑顔を浮かべてくれる。
その周りにはキラキラと無数の星が美しく輝いていたのは言うまでも無い。
…良いのだろうか?
等と多少の罪悪感を覚えつつ、
文無しなので私は黙って彼の後について店を出た。
それから、数分歩いた所でリードが突然に足を止める。
「そういえば、エリス。君の服を新調した方がいいんじゃないかな?」
「服?」
服…。そう言われて私は全身にパッと目をおろしてみる。
すると、以外にぼろぼろになっていて所々はだけていて…。
「はぅあ!!」
淡くって所々を隠す私。
「これで城下町を歩いてたなんて恥ずかしい…」
「ご主人様に羞恥心なんてあったんですか…?」
「なんか言った?」
「いいえ、何も」
「うふふ♪それもそうね」
私は、満面の笑みを浮かべたままで、
とりあえず、ぷりんの両頬をおもいきり引っ張ってやる。
「いひゃいですよーーー!!!」
そんなやり取りを、クスクスと笑いながらリードは見ていた。
「ははは、それじゃ、行こうか」
「うん!行こう行こう!」
地面に突っ伏した状態のままでぶっ倒れているぷりんをほおっておいて、
私達は洋服屋へと向かった。
「わー!すっごーい!あ!あれもいいな〜。
わ!でもこっちもかわい…。あ〜ん♪迷っちゃ〜う!」
次から次へととっかえひっかえ試着しまくる私。
店員の購入させる為とは言えのお世辞で更に気持ちも盛り上がり気分は上々。
「ねぇ〜ん、リード♪」
「うん?気に入ったのがあったら全部買って良いよ?」
まるで私の心を読み取ったのかのように、
彼はそう告げた。
あ、いや…別にいやしい気持ちが…あった訳なんだけど…。
「その服が欲しいんだね?」
「あ…えーと…あぅ…」
「じゃあ、会計してくるよ」
「あ、リードー…」
手に持っていた服は全部で10着。
私としては結構高いお店だったので、
見ているだけでも十分に満足していたんだけど…。
「いいのかなぁ?」
「まぁ、いいんじゃないですか?」
リードは笑顔1つでそれらを私の手から持っていくと、
そのままスタスタとレジへと歩いていく。
「全部で100万ゴールドになりますね」
…一般市民の私としては目の玉が飛び出そうな程の額だったのだが、
リードは表情を変えることなく鞄から財布を取り出すと、
現金で100万もの大金をサクッとレジに出している。
「ねえ、ぷりん。リードってなんであんなに気前いいの?」
「さあ?でも気前がいいってレベルじゃないですよね…」
「うーん……」
リード。謎の多い男である。
「じゃあ、行こうか」
「おぁ!?」
いつの間にやら目の前に立っていたリード。
驚きのあまりに思わず変な声を出していた…。
「じゃあ、僕は宿を取ってくるから、
二人は賢者の石についての情報収集をしてるといいよ」
だが、そんな私の様子を気にすることなく、
リードは笑顔を崩さぬままにそう言い残し立ち去っていくのだった。
「不思議な人ですね…」
「まったく。……ってなんでリードが私達の探し物のことを知ってるの?」
「さ、情報収集に行きましょうか」
ふとした事だったのだが、
そんな私の言葉に対して明らかに顔色が悪くなり、
ぎこちない動きで話をそらそうとするぷりん。
「ちょ〜っと〜ぷ〜り〜ん?」
私は、手に炎を見せながら、
じわじわとぷりんに攻め寄ってみる。
「わーん!僕がいいましたー!!!
だって、アイスクリーム買ってくれるっていうんですよー!!!」
「そーですか、あー、はい、そうですか」
「いひゃいいひゃい!ゆるしてくらはい〜〜〜〜!!!」
いつものごとくぷりんの両頬をひっぱってやる私。
…何度に渡ってやっているせいか、
前より伸びるようになった気がしないでもない。
「っとにもう…困った奴なんだから…」
ポンポンっと埃を払うように手を叩き、今出した炎を消す私。
「あれ、ご主人様?自分で炎を消せるようになったのですか…?」
「んあ?……言われてみれば」
無意識のうちの行動だったのだが、
どうやらいつのまにかレベルアップしていたようだった。
「成長した。ってことなのかしらね?」
「頭の中も大人に成長してくれればいいのに…」
「あんた、また何か余計な事言わなかった?」
「……ぷひ〜♪」
…出来ないのであろう。
それでも必死で口笛を吹き、場をごまかそうとしている。
その姿を見ていると、怒る気にもなれない。
と言うか、何だかとても情けなく見えて、怒りも何処かへと消えていった。
「いひゃいです〜〜〜〜!!!!許してくらはい〜〜〜〜!!!」
だが、そんな考えとは裏腹に、
おもいっきりぷりんをひっぱっていぢめる自分が居たのは何故だろうか。
「口は災いの元だボケぇーーーー!!!」
…洋服店に居たのも忘れて、
物凄い怒声をあげる私なのだった……。
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