「神の言葉は偉大です」



私達は情報を求め人の多く集まりそうな場所、
城下町の広場へと足を運んだ。

「神父様の演説が始まるらしいぞ!」

「おおっ!神父様の!ありがたい言葉を戴けるのか!」

するとそこはなにやら騒がしくて、
中心にある噴水の回りには大きな人だかりが出来ている。

「なにかな?」

「面白そうですし行ってみましょうよ」

「ん、そうだねぇ」

私は人の間を抜けて前の列へと強引に割り込む。
明らかに嫌そうな顔をされたが、背が低いから後ろからじゃ見えないんだよね…。

「あれ?あの神父は確か…」

騒ぎの中心に居た人物…。
それは私に使い間の儀式を施したあの気味の悪い神父だった。

「魔女です!あれは、魔女なのです!」

何だかよくわからないがなにやら必死な形相で叫び声をあげている。

「髪の色が人の返り血で真っ赤に染まった…。
あれはそう、紅の魔女です!私はこの目で見ました!
魔女の体から悪魔が現われ、あっという間に町は滅びたのです!」

「紅の魔女…」

その言葉を聞くのは二度目で、
あの時は意味がわからなかったけど…。

「こいつが根源か…?」

正直、非常にむかついた訳ですが…。
どうする事も出来ないと言うか、
演説の続きが気になって気になって…。
…心からむかつくんだけど何故だか様子を見てしまう私。

その後も長々と演説が続き、
住民は彼が動作を取るたびに歓声を上げたりしては反応をしめしていた。
…そんなに偉大な神父なんだろうか?
正直、第一印象から何だかうざかったのに。

「みなさん!魔女は少女のようなあどけない姿をしています!
しかし決してその容姿にだまされないで下さい!
魔女は残虐非道で人の命をもて遊ぶ悪魔なのです!!!」

(うーん…、おっかない奴も居るのね……)

住民は声を上げ、神父はそれに答えるように手を天空にかざす。
…その姿はやっぱり偉大には見えなくて何だかうざい。

けれども、一応そう言うおっかない奴もいると言う事だけは覚えておこうと、
神父の言葉に耳を傾けてみる。

「魔女の名前はエリス!」

(エリス?しっかりと覚えておいて出会わないようにしないと…)

心の中でメモ帳を開きその名前をしっかりと記載しておく。
…ってあれ?何か聞いたことのあるような名前…。

「あの…ご主人様?」

「ほえ?」

「…エリスって…今……」

「ん?………………はぁ?!」

その事実に気がついた私は思わず驚きの声を上げていた。
…すると、周りの視線が一斉に神父から私に移ってくる。

「ひいい!!魔女だ!!!魔女がまた私を殺そうとそこにいるうううう!!!!」

神父はあたしを指差して、がたがた振るえ出す。
それと同時に回りもざわざわとざわめき…。

「な!ちょっとまってよ!私のどこが魔女だっていうのよ!」

まるで場の空気に流されるかのように。
気がつけば、私は神父につかみかかっていた。

「だ!誰か!助けてくれ!殺される!!!」

「ふざけないでよ!!」

怒りに身を任せ、私は腕を振り上げて、
そのままに神父を殴りかかる。

「おっと、待ちな。魔女さんよ」

だが、寸前の所でガタイのいい男が腕をつかんできた。
腕を解こうとするが力では到底かなわない…。

「さわんじゃないわよ!私は魔女なんかじゃないんだから!!!」

だが、男はそんな私の言葉をまるで無視して、
いきなり私の顔を反対の手で押さえつけてくる。

「っへ、なんだよ」

じっと私の顔を見てくる男。
…顔だけ見ても筋肉質で汗臭くて…。

「魔女魔女って言うからどんな婆かと思いきや…。
かわいい顔したただのお嬢ちゃんじゃねえか!!!」

「た、頼む!魔女を殺してくれ!!!」

「神に仕える職業の分際で、簡単に人を殺すとか言うんじゃないわよ!!!」

私が叫ぶと、神父は更に脅えだす。
それを見ていた、ガタイのいい男は、
いきなり私を地面に叩き付けると民衆の方へと向き直り叫びだす。

「みんな!神父様がこう言ってるんだ。
俺達で悪の魔女に正義の鉄槌をくだしてやろうぜ!」

その言葉に民衆は、「おー!」と、叫びをあげ、
そして、その中の一人の男が、私の傍に近寄ってきた。
手にはどこからか持ってきたのか、剣が握られている……。

「悪の魔女め…!死ね!!!」

男は、いきなり私に向かって、
その剣を振り下ろしてくる!

「わあ!!」

私は間一髪、それを転がって避けれたのだが…。

「馬鹿!なに考えてんのよ!!!当たったら死んじゃうじゃない!あんた変態!?」

まるで何かに操られているかのように、
男は私の言葉に全く反応を示さず、
それどころか、更にもう一撃加えようとこちらに歩み寄ってくる。

「よう、手を貸すぜ」

しかも、民衆の中から、更に数人の男達が私の方へと歩いてきて、
何もためらう事無く私の両手足を押さえつけてくる。

「なによ…、って!ちょ、ちょっと!離して!離しなさいったら!!!」

…必死で訴えても、助けてやれ!と言う声は聞こえてこない。
それどころか、殺せ、殺せと、合唱のように言葉が響いてくる。

「やめて!!!お願い!誰かやめさせてよ!」

…泣いても叫んでも誰も私を助けてくれない…。

「死ねぇ!!」

そして、勇者きどりのバカ男が、
私の顔目掛けて剣を振り下ろしてくる!

「いやあああ!!!」

恐怖のあまりに私は強く目を閉じた。



だがその時!
強烈な振動音と共にものすごい地震が起きる!

「エリス!無事か!!」

「はぅぅ…リードぉー…」

遠くからの声しか聞こえなかったけど、
どう言う状況なのかは何となく理解できた。

「響け!!大地のドラム!!!」

リードが奏でる楽器により、大地がまるで彼の支配下に置かれたかのように、
男達の足元のみが異常なまでに波打っている。

「ぎゃあああ!!!」

民衆はリードの起こす地震でバランスを崩し、次々と転倒していく。
私をおさえつけていた男達も、あまりの揺れに立っていられなくて全員その場に転倒した。

「エリス!!」

民衆が倒れて開いた道から、
リードが私の元へと駆け寄ってくる。

「ううう…りいどお〜」

どうにもこうにも死にかけていた私は、
恐怖のあまりに涙でぼろぼろになっていた。

「ご主人様…よかった。間に合って…」

いつのまにか消えていたぷりんは、
民衆のただならぬ様子から危険を感じ、
急いでリードを探しに行ってくれていたみたいだ。

「とにかく、急いでここから離れよう」

そう言うとリードは私をひょいっと抱きかかえて、
城下の外の方へと駆け出していった。



私達は、城下から少し離れたところにある、
森の中へと逃げ込んできていた。

「…ふぅ、ここまでくれば大丈夫だろう」

「あのー、リード?」

「ん?」

…気がつけばお姫様抱っこをされ、
リードと顔を近づけた状態で向かい合う形になっていた。

「うわ!ごめん!」

リードは本当に言葉どうり顔を真っ赤にし、
慌てて私を地面へと降ろした。

「ぷっ…!あははっ!」

「…は、はははは……」

そんな純粋な彼を見ていると、
何だか不思議と笑いがこみ上げていた。

…凄く怖い思いをしたけど、
リードを見てたら凄く安心しちゃったよ。

「あの、リード……」

「うん??どこか痛むのかい?」

「んっと…そうじゃなくて、助けてくれてありがと」

私のその言葉に、
リードは黙ってにっこりと微笑んで返してくれる。

(ううっ!眩しい…!!)

その美しい笑顔は、まるで太陽を直視したときのようにまぶしく、
夜の闇を静かに照らす星達のように美しかった。

「紅の魔女……」

そんな時、ぷりんがぼそっとつぶやいた一言で、
夢の世界に旅立っていた私は現実へと静かに帰ってくる。

「それは……」

「それは?」

二人は、声をハモらせ、私に顔を近づけてくる。

「はぅ…!!」

「エリス?」

まるで発作のように私の心臓は強く鼓動を打ち、
身体の中でどっかがおかしくなったんじゃないかと思うくらいに呼吸が苦しくなる。

「くっ…!うぅっ…!」

そして、それが数秒しておさまると、
ぷりんとリードが目を丸くして私の事を見ていた…。

「ふぅ……」

「ご主人様…。それは?」

「うーん……」

私にも全く意味がわかんないんですけど、
と言いたい所だったけど、とりあえず二人にわかるだけの事を話してみる。
…が、案の定、二人ともさっぱりわかりませんと言った表情を浮かべている。

そりゃ、現場に出くわしていた当人もわからない訳だしね?

「紅の魔女ってなんなんだい?どうして、エリスがあの神父を殺すの?」

「…わかんないよ」

「そう…だよね」

「あ、でも、あの神父、もしかしたらあの時の事を言ってるのかも…」

「心辺りがあるのかい?」

「うーん…あんまり言いたくないんだけど…」

私は、私の生まれ育った町で起きた出来事を。
…まぁ、大まかにだけどリードに話した。

「…そんな事があったんだ」

その後、数分間。
私達の間に重々しい沈黙が訪れた。

気を使わせてしまったのかもしれないし、
もしかしたら私の話したことについて考え込んでいるだけなのかもしれない。

だけど、何だかどうしていいかわからなくて、
私にはただ黙っているだけしか出来なかった…。




「あ、僕食料でも探してくるよ!」

最初にこの重たい沈黙を破ったのはリードだった。

「あ、はい!お願いします!」

「任せておいて」

この暗い雰囲気に絶えられなくなっていたのは彼だけではないだろうが、
一生懸命場を和ませようと微笑む彼は素敵な人だと思う。

しかし、そんなリードが2、3歩歩いた後、
何故だか突然に、彼の座っていた所が大爆発を起こした!

「きゃあ!なになに!」

慌てて立ち上がり辺りを見回すが、
怪しい人影もモンスターの気配も感じられない。

すると、次の瞬間!!
私の背後でまばゆい光が放たれたと同時に、
先ほどと同じような爆発が起こる。

「なんなのよ!!」

「エリス!!避けろ!!」

「…ほえ?」

リードの言葉に振り返ってみると、
なんと!その爆発に巻き込まれた無数の樹木が、
私に向かって一直線に倒れてきているではあーりませんか!

「わわ!危ない!」

間一髪!私は倒れてくる木を避ける事が出来た。
何の変哲も無い木が爆発を起こすだなんて異常なのもいい所だ。
…いったい何が起こっていると言うのだろう?

だが、相変わらず回りには特別怪しい気配などは感じられない。

「大丈夫ですか〜ご主人様〜〜!」

そんな私を見てぷりんがこちらに向かってひよひよと飛んでくる。
…飛んでるから地雷とかを踏む心配は無いんだろうけど、
非常に無防備で間の抜けた面をしていたのは言うまでも無い。

『バサッ!』

「うわ!何ですかこの網は!」

しかし、ぷりんは案の定?
私の元にたどり着く前に、
虫捕り網の様なものに捕らえられてしまった!

「よっしゃあ!研究材料ゲット!」

遠くの方から嬉しそうに叫ぶ声が聞こえてくる。
なんと言うか、思いっきりガッツポーズをしていそうな感じだ。

「あああ〜〜〜〜助けて下さい〜〜〜〜!!!」

ぷりんはなすすべも無くそのまま森の奥へと引き寄せられて行き、
あっというまに小さくなっていくのだった……。

「………あ!!!」

…それから数秒後、ぷりんがさらわれた事に気がついた私は、
リードと共に周囲を警戒しながら奴が消えたていった方へと進んでいく。

そしてしばらく歩いたその先には、
見るからに怪しい謎の一軒家がたっていたのだった……。




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