- 「その音だけは勘弁してよ」
しかし!何やら巨大な破裂音と共に、ウルフはおぞましいうめき声を上げ、
私の目の前で、ドバンと言う音を上げて破裂する。
「はぅあ…肉がグロテスク…」
「アンタねえ、戦闘中によそみしてんじゃないの」
「うぅ……ファナが助けてくれたの…?」
声のほうへと振り返ってみると、
ファナの手には数回にわたって私の額に押し当てられた例の筒状の物体が握られていた。
「そうよ。でもまぁ、この恩は生涯かかったって返せないでしょうから?
これから先一生私のためにつくすのね」
「あー、はいはい」
私はとりあえずファナの言葉を無視して、ウルフ達の方に目をやる。
すると、彼等は先ほどの光景を目の当たりにしたせいか、
酷く脅えた様子でその場から逃げ出していった。
(やっぱり、本能的にファナは恐いのね……)
間違いなく彼等の判断は正解だったと思う。
…どうせ逆らったら殺されるだけだしね、命を大事にっと……。
この時ファナが敵じゃなくて、
本当に良かったなと思う私なのだった。
「駄目だ…僕の楽器じゃ、あんなに高い所の魔物には音が届かない!」
突如リードが悔しそうに言う。
私が無事だったことを確認すると、
無駄口を叩く事も無く上空から静かに私達を狙っているモンスターに意識を移していたようだ。
戦いから常に意識をそらさない君は素敵だよ、うん。
「鳥か……やっかいね……。エリス!雷の魔法であの鳥を落としなさい!」
「イカヅチ???」
「はぁ?…アンタ、雷の魔法もしらないわけ?…ったく、本当につかえない奴ね……」
「むっきいい!!!うるさいわね!
私は魔法を覚えてまだ日が浅いんだからしょうがないでしょー!」
ファナの嫌味たっぷりな言葉にぷっつんして言い返すと、
彼女の顔に無数の怒りの四つ角が現れ、
もう誰が見てもわかるほどに怒りをあらわにして怒鳴り声をあげてきた。
…これが、いわゆる逆切れと言う奴なのだろうか…。
「やかましい!!!さっさとあれを落とせ!
雷の呪文は【エル・ト】!初級だから詠唱はいらないわ!早くしなさい!」
非常にやりきれない気持ちだったのだが、
このまま無防備に襲われるよりは先手必勝を打っておくほうが絶対に良い。
夜寝てる間に襲われでもしたらひとたまりも無い…と言うか気になって寝れないし。
「へっ、やればいんでしょー、やればー!」
なんだかんだ言い聞かせても気持ちが治まるわけではない。
私はぶすっとしたままファナの言うことを聞いて、魔法を唱える。
「エル・ト!!!」
すると、空に小さな黒い雲が発生して、雷鳴と共に、すさまじい閃光が放たれた!!!!!!
それは見事に、巨大な鳥に命中する!!
……が、やはりにわかじこみでは限界があったのだろうか…。
「げろげろぉ!!はずしちゃったよ〜!」
一応、2羽の鳥に当たりはしたのだが、
威力が弱かったのか、当たっただけと言う感じでどちらも倒せてはいなかった。
「…襲ってくるわよ!!」
3匹の鳥は一気に私にめがけて襲い掛かってくる。
攻撃を食らわされて頭にきたのだろう、
先ほどまで空からこちらを見下ろしていた時の余裕は無い。
「はぅうー!もう駄目ーーー!!」
向かってくる彼等の恐ろしさに頭を抱えてうずくまる私。
だが、そんな中、「よしっ!」と叫ぶリードの声が聞こえてきた。
「任せろ!この距離なら僕の音が届く!」
リードは鞄から緑のボードを取り出し、それを地面に立てると、
私とファナに何やら黄色くて小さい何かを投げ渡してくる。
「それを耳にはめておいて!!」
私達は言われるがままにそれを耳に詰め込む。
そして、何をするのかと思いきや、
緑のボードと同時に取り出していた鉄の爪を装着すると、
きぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜!!とボードを引っかき始めたのだ!!
「うええ〜〜〜〜!!!」
「何考えてるのよ〜〜〜〜〜!!!」
私とファナもあまりの気持ちの悪さに耐え切れず声を上げる。
…だが、まだ耳栓をしていたから良いのかどうなのかわからなかったけど、
鳥はその音で苦しそうに声を上げ、
数秒後には嫌な破裂音の後、バラバラに砕け散っていた。
「…ふっ、名づけて、【黒板を爪で引っかくと気持ち悪い音がでるぞ!】だ!どうだ?参ったか〜!」
リードは満足げに笑っている。
それを見て、私とファナはお互いに顔を見合わせうなずくと、
二人でおもいきり彼に向かって飛び蹴りをかますのだった。
その日の夜、私達はテントを張り野宿の準備を始めていた。
「ふぅ、これで結界も張れたし、とりあえず準備OKね」
「わーい!ご飯ご飯〜♪」
食事の最中、私はずっと気になっていたことを、
ファナに尋ねてみる。
「ねぇ、ファナ。あの筒はなに?」
「筒って…あんたねぇ…」
ファナは、箸を口にくわえると、
懐から鉄で出来た例の筒状の物体を取り出し、私に手渡してくる。
「それはね、銃よ」
「…銃?」
「んー、古代のアーティファクトの1つよ。
まぁ…それに関しては私が改造して性能も格段にあがっちゃってるけどね?」
「へぇー…。ファナって凄いんだね?」
「今更何言ってるの?」
「むむむ…」
ほめて損した気がするのはきっと気のせいじゃないだろう。
何となく不愉快だったが、下手に触って怒られるのもなんなので、
私は銃をファナにつき返してからまた食事を開始する。
「あ、流れ星見っけ!」
…別に見つけたところでどうと言う訳じゃないけど。
どうせ1秒足らずで消えて言っちゃうんだし。
「それにしても、ここって凄く星が綺麗だね」
「うん!ここが危険指定区域だって事も忘れちゃうよね!」
空に輝く満点の星々。
それは美しく、そして儚く。
生まれては消えていく。
…もしかしたら、この美しさに魅了され、ここで消えていった人達もいるのかもしれない。
これだけ美しいのならば、命を投げる覚悟でも目にしてみたいと思うかもしれない。
…そう考えると、やっぱりここは危険指定区域なんだなと改めて実感する私なのだった。
私達は草原を越えた先にある、
港町サウスへとたどり着いていた。
「ここは港町サウス。そして、この島の一番東にあることから、
東の国、まぁ、この大陸ファストでは一番の貿易の街ね。
めずらしい酒が多くて、最高の街なのよ♪
そう言う事で私は酒場に行ってるけどアンタ達はアンタ達で好きにやってなさい」
それだけ告げると、
ファナは私達の返答を待つ事無く、
スキップをしながら楽しそうに去っていくのだった。
「うーん…、好きにしてろと言われてもいったい何から始めたらいいの…?」
「そうですねぇ…野宿で疲れてるでしょうし、とりあえず宿屋でも取りましょうか?」
「ん、そうね。じゃあ、宿屋をまず探そうか。行くよ!ぷりん、リード!」
そして、私達は宿屋を探して歩き始めるのだった。
それから少し歩いてからふと振り返ってみると、
いつのまにやらリードの姿がなくなっていたことに気がつく。
「あれぇ?リードはどこいったの?」
「え?…さっきまで後ろに居たと思ったんですけど…」
「うーん…広い町だし人も多いし…迷子かなぁ?」
「どーしよう。お金無いよ…?」
…相変わらず私とぷりんは文無しだった。
と言うか、あれから数日しか経っていないし、
仕事をしたわけでもないんだからお金を手に入れているはずが無い。
モンスターを倒してお金を稼げるのはゲームの中の話だけだ。
…まぁ、たまに金品を持ってるモンスターはいると思うけどね?
「…とにかくお金を持ってる人と合流しましょう」
「それしかないよねぇ…」
私とぷりんはがっくりと肩を落とし、
酒場に居ると言っていたファナの元へと向かうのだった。
私達が酒場に足を踏み入れると、
ファナはすぐにこちらに気づいて声をかけてきた。
「あら?アンタ達。どうしたの?何か面白い情報はあった?」
「文無しだった…」
「…あ、そう」
私の言葉に、ファナはやれやれと言った様子で大きくため息をついた。
「まぁ、そんなこったろうと思ったわよ」
ファナは、コップに一杯になっていたお酒をいっきに飲みほすと、
ゆっくりと席から立ち上がった。
「今日は、もう宿に泊まりましょう。
明日は私も協力してあげるから。それでいいでしょう?」
「なにがいいのよ……」
「まぁ、私に任せときなさいって。マスター!お愛想ー」
ファナがカウンターでコップを洗っているマスターに声をかける。
…お愛想ってなに!?
「いや〜、姉さん。俺も長いこと店をやってきたが、
こんな飲みっぷりの良い女は今まで見たことがねぇ。
見てて気分が良かったぜ。今日は俺のおごりだ」
「あらそう?ありがとう。マスター」
「その代わり、また来てくれよ」
「そうね、この町に居る間はひいきするわ」
マスターにお礼の意味かファナが彼に向けて軽く投げキスを送ると、
ちょっと渋めのマスターだったのに、
まるで火山のように顔中から煙を上げて倒れてしまった。
「さ、アンタ達行くよ」
だが、ファナはそんなマスターの様子を気にする事無く、
さっそうと外に出て行くのだった。
「うーん、相変わらずファナ様の魅力は素晴らしいですね……」
「全くね…でも、私も男だったらあんな美人とお付き合いしてみたいよ」
「そうですね…僕も人間なら…」
「でもさー、性格がちょっと…ね?」
「そうですねー、性格がちょっと…で……」
言葉が途中で止まり、ぷりんの白い肌が段々と血の気を失い青白く染まっていく。
……これは、間違いない。今私の背後には……。
「エリス、以前に教えたと思うけど、悪口は人に聞こえないように言うのよ?」
まぶしいばかりの笑顔でファナが立ち尽くしていた。
「ご…ごめんくさい!」
「ご主人様間違ってますよ!!」
慌てる私達をよそに、ファナは小さくため息をつくと、
「良いから早く着なさい」とだけ言い、お店を後にするのだった。
「…怒られなかった……」
「うーん、まぁ、ファナ様も疲れてるのかもしれませんね、ご主人様みたいな人のお世話で」
「………ほぅ?」
「さ、宿に行きましょうか」
先ほどの言葉を誤魔化すように早口でそう告げると、
ぷりんは逃げるようにしてファナを追いかけ飛び去っていくのだった。
「ちょっと待てこらぁーー!!」
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