- 「実は高年齢者です?」
「あら、ちょうど部屋の外に居るじゃない」
あの男達、リードとぷりんの事だったようだ。
…ぷりんも一応男としてカウントされていたのか…。
そのせいでいまいちピンとこなかった。
二人はちょうど朝ごはんに行こうと部屋の前で話し合っているようだった。
「あ、ファナさん。おはようございます。昨夜はよく眠れましたか?」
リードがさわやかに朝の挨拶をする。
彼の笑顔を見ればその日一日が楽しくいけそうなそんな気持ちにさせられる。
「そうね。まあまあ、ってところかしら」
「ファナ様おはようございます!ところで、ご主人様の姿が見えませんけど…?」
ぷりんはあたりをきょろきょろと見回していた。
…私ここにいるんですけど……。
その様子を見て、ファナはくっくっく…と声を殺して笑う。
本当にわからないものなのだろうか?
と言うか…化粧1つでそこまでわからなくなるなんて…。
まるで普段の私が本当に駄目みたいじゃん。
「うん?あ、確かに言われてみればエリスの姿が無いね。エリスはどうしたんですか?」
「…リードまで……」
二人は本当にあたしだとわからないのだろうか…。
とても困った顔をしてあたりを見回している。
そんな二人を見てファナは、
「あっはは!アンタ達本当におもしろいわね。エリスなら目の前にいるわよ。ほら」
そして、ファナは私を指差す。
「へ?」
二人は声を揃えて驚きの声を発し、
まるで狐に化かされたかのような顔でじっと、こちらを見てくる。
「これが…、ご主人様…?」
「え、あ、うん。一応ね…。あんまりマジマジと見ないでよ…」
あまりにも二人が真剣な表情で見てくるので、
なんだか見られている私まで緊張してくる。
「いや…驚きました…。いつものがさつなイメージとは打って変わってなんともはや…」
「それって誉めてるのかしら…?」
私は指をパキパキとならしながら徐々にぷりんに近づいていく。
「ももも!もちろんです!」
ぷりんは首(むしろ身体?)を縦に振りながら答えた。
「ねえ、リードはどうおもう…?」
私は少し照れながらリードを見てみた。
「え……?」
リードは真っ赤になって固まっていた。
「あはは!本当にアンタ達ってバカでおもしろいわ!!」
ファナはお腹を抱えて笑っている。
「ねえ、そんなことよりファナ!お腹すいたから朝ごはん食べに行こうよ!!」
「え?あ、そうね。…見た目は変わっても、中身が変わらないんじゃまだまだね、エリス?」
「むぅー、私別に女優とかじゃないもん!!」
「……エフィナは格好が変わる度に性格が変わって、本当に恐ろしい女だったわ…」
「うーん……」
ファナの話を聞けば聞くほど、
私の本当の母親とは何者なのか。
そんな疑問がふつふつと湧き出てくる。
「…まぁ、あの人はどんな者をも魅了する力を持った、
最強の恐怖と書いて最恐の悪魔ですね」
「………聞けば聞くほど会うのが恐くなるよ」
私の本当のお母さん。…いったいどんな人なんだろうか?
と言うか、そんな恐ろしいお母さんと結婚したお父さん。
何を考えていたんだろうか……。
ますます想像がつかなくてこんがらがってしまう私なのだった。
私は先ほどより少しおめかしをして、
一人フラフラと外を歩き回っていた。
「ねぇ、君!暇なら俺とデートしなーい?」
「あ…いえ…結構です。って言うかむしろ帰れ…」
「え?何?声が小さくてよく聞こえなかったけど…」
「…待ち合わせなんです!」
……何だかよくわかんないけど、さっきからずっとこの調子だ。
断っても断っても新たに変な男が声をかけてくる。
まぁ、いわゆるナンパと言う奴なのだろうが、
私の住んでいた街は田舎だったので、勿論生まれて初めての経験だ。
何と言うか、都会に来たんだなぁと実感させられる。
「あー……早くヴァンって人現れてくれないかなぁ…」
そう、思い出すこと数時間前…。
「ねぇ、ヴァンってどこにいるかわかるの?」
食事を終え一服していたファナに私は尋ねた。
「ああ、その格好のまましばらく外を歩いてご覧なさい。す〜ぐ食いついてくるわよ。
あいつ、かわいい女の子に目がないから。ね?かわいいエリスちゃん」
ファナはそういって私の肩をぽんっと叩いた。
…本当に本気で言っているんだろうか?
何だか心の奥底では私を騙そうとしているんじゃないかとも思わされるような怪しい笑顔だ。
「アンタ、私が信じられないって言うの?」
まるで私の心を見透かしたかのように、
突如鋭い目つきで私をにらみつけてくるファナ。
その眼光から放たれる殺気は、
見たもの全てを石化させるような…。
そう、言うなればメデューサのようだった。
「いや…、えっと…、信じます」
半強制的にそう言わされていたような状態だったが、
ここで否定していたのならきっと、
数秒後に私は綺麗な花の咲く川岸を一人、ふらふらと歩いていただろう。
「じゃ、私はまた酒場に行ってるから、ヴァンが出てきたら教えてね」
ファナはスッと席から立ち上がると、
ニコニコと笑顔を浮かべながら宿屋の食堂を後にしていった。
昼間っから飲むのかよと言いたかったが、
多分、彼女の中では一日中飲むことの方が常識なのだろう…。
とまぁ、そう言う訳で、私は一人フラフラと道を歩いていたのだった。
「はあ、こんな格好で歩くなんて恥ずかしいな…」
誰も聞いていないと思い、ふとこぼしたその時だった。
「お嬢さん。貴方の格好はちぃーっとも恥ずかしく何てありませんよ」
「はぁ?」
背後から何だか嫌にかっこつけた風な口調でそう言ったのが聞こえ、
私は不安一杯一杯だったがとりあえずその声のした方へと振り返ってみる。
するとそこには、緑のマントに緑の帽子。
そして、緑の服を着た怪しい男が素敵な笑顔で微笑みかけてきていた。
「初めましてレディー。突然ですが道を尋ねても宜しいですか?」
「え、あ…あの私、この街の人間じゃないので、よくわからないんですけど…」
正直、応対することなく音速を超える速さでこの場所から逃げ出したかった。
…怪しい上に何だか変な人オーラが出てる。
この人は関わっちゃいけない人だと私の野生の勘が言っていたから。
だけど、こんな格好だと全然早く走れないし、
下手に走り回って袋小路にでも追い詰められたら絶体絶命。
差しさわりの無い返事でとにかく早くどこかへ行ってもらおう。
私はそう考えて頭をとにかくフル回転させていた。
「いえ、私が尋ねたいのは、お嬢さん、貴方の行く道ですから」
「はぁ?死…じゃなくて……。
あの、私、ヴァンって人を探してるので…」
「え、ヴァン?あ、それ俺だ…」
「うあ!」
「うあ!…って、何だよその化け物を見たような顔は…」
そりゃ、普通なら叫ばずには居られないでしょ?
探していた人物がこんなやばい男だったなんて…。
「どうでもいいからとりあえず酒場まで来てください!」
「え?あ、ああ…わかった。」
私は彼の横をスッとすり抜けると、
逃げるようにしてとにかく全速力で酒場へ向かって走った。
(助けてー!!!)と、心の中で叫びながら。
「ファナーーー!!!」
私は酒場へつくなり大声で叫んだ。
その声のでかさに中に居た客全員がこちらを振り返ってきたが、
正直、今はそんな事どうでも良かった。
「あらエリス?ヴァンは見つかったの?」
大勢の客の中からファナの姿を確認すると、
私は全速力でそちらに向かい、そのままの勢いでファナのもとへ飛びついた。
「う、ううう…」
「な、なによ。アンタ泣いてるの?」
「ぐずっ…だってぇ…」
「よっぽど恐い目にあったのね…ごめんね…」
そう言ってファナは私の頭を優しくなでてくれる。
…何だかお母さんに抱きしめてもらっているかのような、
そんな安堵感が私の中に生まれていた。
「それで、ヴァンは見つかったの?」
私が落ち着いたところでファナは私に問い掛けてくる。
「うん…。一応…」
私は、後ろからついてきていたヴァンにそっと指を差す。
「…確かにヴァンだわ…。ヴァン、久しぶりね」
「へ?ん…?悪いけど、誰だ?」
だが、ヴァンはファナのことがわからないようだった。
あんな思いまでして連れてきたのになんで!?
「ふっ…、まあ、無理もないわね。
あれから15年もたったんだから…。
ヴァン、私も子供から女になったのよ?」
「子供…?子供子供子供……?…あ、お前もしかしてファナか!?」
「ご名答。よくわかったわね」
「いや、いくら成長してもその憎らしい口の利き方は変わってないからな」
「ふふ、アンタも相変わらず、か弱い女の子をいじめまくってるみたいね」
「いじめてるんじゃない!俺はいつだって真剣だ!」
「はいはい、本当に、バカなんだから……」
「…隣座っても良いか?」
「どうぞ」
二人は、久しぶりに出会った事で思い出話やらなにやらに花を咲かせていた。
徐々にお酒も入っている性か、二人とも段々とテンションもあがって行っている。
それから数十分後…。
「女房が恐くて女が口説けるかってんだーーー!!!」
「…………」
ヴァンがすっかり出来上がってしまっていた。
「おぅ!ファナ!!いい女になりやがって畜生め!!俺は今日は気分がいいぞー!!」
「はいはい、じゃあ今日はヴァンのおごりよね?」
「あったりめーだバカ野郎!!全部おごってやらぁ!!」
「それはどうもご馳走様」
…良いんだろうか?これって詐欺にならないんだろうか?
「…エリス、ヴァンを連れて宿に帰りましょう」
「え、うん…」
ファナは、ヴァンの懐から財布を抜き出しお勘定を済ませると、
自分より身長のあるヴァンを軽々と担ぎ上げて酒場から出て行った。
…私はびっくりして少し遅れたが、すぐにそれを追いかけた。
「…気持ち良さそうに寝てるねー」
お酒を飲んだ性か、ヴァンはファナの背中で気持ち良さそうにいびきをかいていた。
「……私、ヴァンが酔った所なんて初めて見たわ」
「そうなの?」
「えぇ、昔はどれだけ飲んでも酔っ払わなかったのに…。
ヴァンも年を取ったって事なのかしらね」
「ふーん……」
「まぁ、こいつ100年くらい生きてるらしいから15年くらい大した数字じゃない気がするけど」
「100年!?」
「本当かどうかは知らないけど、いつもそんなようなこと言ってたから」
…そう言われて見て初めてヴァンの顔をじっと見てみたけど、
全然そう思えないほどに若々しい顔つきで…。
「ファナと同じくらいの年かと思ってた…」
「冗談!間違ってもヴァンとエフィナとは一緒にしないで欲しいものね」
「…なんで?」
「二人とも確実に爺と婆と言える年齢だからよ」
「………え?」
婆と言える年齢の私のお母さん。
そして17歳の私。
………高年齢出産?
もしかして寝たきりで動けないから会いにこれない?
段々と自らの母親に対するイメージが壊されていく私なのだった。
←前へ ● 次へ→