「そう言う事するのマジでやめてよね!?」



気がつけばすっかり日は暮れて、空には満天の星空が光り輝いていた。

「ねぇ、ヴァン。ぷりんは生きてるよね」

「だと良いな」

「私、ぷりんを探すから」

「当てはあるのか?」

そんなものあるわけない。ただ…何だか居ても立っても居られなかった。

「無い」

「あのなぁ…」

ヴァンは大きくため息をつく。

「私の暴走は、もう絶対に起きないの?」

「…そうだな。もう、暴走は起きることはないだろう。
その証拠に、今は夜で、しかも満月なのに、お前の髪は赤じゃない」

「それなら、問題無いじゃない。私は、ぷりんを探しに行くから」

「エリス。お前!いい加減にしろよ!」

「…なによ!!何でよ!!」

「アイツは、身体を張ってお前を助けたんだぞ!?
それで、確かにお前の暴走は無くなったな?
だから、どうした?今のお前には、自分の身を守れるほどの強さはあるか?
アイツが生きていたとして、今のままアイツを探しにいってみろ!モンスターに殺されるのがオチだ!
お前が死んで、アイツは喜ぶのか?」

私だってわかってた…。わかってたけど…!

「う…ううう……!」

さっきからこらえていた涙が急に溢れ出してくる。

「今のうちに、たくさん、泣いておけ。これから先、泣いている暇なんて無くなるからな」

そういって、ヴァンは私に優しく微笑む。

「ぐすっ、ぷりん…ぷりん……!なんでいなくなっちゃったのよー!」



あの後、私はずーっと泣きっぱなしだった。
そして、そのまま泣きつかれて眠ってしまったのか、目が覚めたらベットの上にいた。
間違いなくヴァンが運んでくれたのだろう。
…時々ムカつくけど意外と良い奴だから何だか憎めない。

「ん……?いいにおいがする…」

私は、ベットから降りると、ふらふらと、においの方へと歩いていく。

「お?エリス。起きたか?」

台所でヴァンが朝ご飯の仕度をしている。
きちんとエプロンまでつけて…何とも笑える姿だ。

「あや…?おはよ〜。って!ヴァン怪我は!?」

私の記憶が確かなら、昨日の夕方頃からヴァンは右腕が折れていたはずだ。
だが、今は、普通に右腕を使って、料理をしている。
…おまけにあれだけ出血していて血なまぐさかったにおいも完全に消えている…。

「ん?ああ、あれか、寝て起きたら治った」

「寝て起きたら……」

ものすごい回復力…。いくらなんでも、そんなにすごくていいの…?

「まぁ、良いことなんだから別に問題ないだろ?早く顔洗ってこいよ」

まあ、いいのかな…?しかし、本人がそう言っているのだから、
いまいち納得がいかなかったけど、私はモソモソと洗面所へ向かった。



洗面所で鏡を見ると、目が真っ赤に腫れ上がっていた。

「うあ…ひどい顔してるなあ…私」

私は、とりあえず顔を何度も洗った。
しかし、どうしてここは、こんなに生活用具とかが揃っているのかしら…。

「ヴァンが普段から住んでるのかな…?」

ふとそんな事を思いながら鏡を見てポーズを決めたり色々と笑顔の練習をしてみたり、
気がつけばそんなことに夢中になっていた。

「エリス。さっきから何度も呼んでいるんだが…?」

いつのまにかヴァンが左手におたまを持って私の背後に立っている。

「あわわ!びっくりした…何々?今の見た…?」

ヴァンは明らかに私をあざ笑うかのような表情を浮かべると、
肩をプルプルと震わせながら台所へと戻っていった。

「……はずっ!」

何度も呼んでいたと言う事は、多分食事ができたのだろう。
ちょっと恥ずかしかったがそれ以前にお腹がすいてたまらなかった私は食卓へと向かった。

「わーい!いっただきまーす♪」

私は、さっそく席へとついて、片っ端からご飯を食べはじめた。

「うーん!おいしー!やっぱり、人間食べないと駄目ね」

「…だからって…もう少し落ち着いて食えば?」

言われて見てみると、テーブルの上の半分のものはすでにたいらげられていた。
うーん…予想以上に早食いだったかもしれない。

「ん、そう言えばさ、私はこれからどうしたらいいの?」

勿論、無意識のうちの行動なのだが、そうやって訪ねながらもご飯を食べる手は止まらない。

「せめて、飲み込んでから言えよ…」

「あはは、ごめん」

私は、口の中に入っていたものをぐっと飲み込み、いったん食事の手を休める。

「そうだな…俺がお前に3ヶ月で、基本魔法と魔法の名前、詠唱。
それ位は、教えてやろうかな」

「3ヶ月ーーー!?そんなに待てない!1ヶ月だよ!」

「ま、それはお前の頑張り次第だ」

「絶対!1ヶ月で習得してみせるよ!」

そう言うと私は、テーブルの上に残っていた僅かな食事をいっきに食べつくし、
力強く席から立ち上がる。

「さあ!早速始めようよ!」

「うああ…お前…俺の…俺の分まで……」

「そんなのいいから早く早く!」

私は、渋るヴァンを半ば無理やり引っ張って、家の外へと出た。

「さあ!修行の始まりよ!」

「飯…飯……俺の飯……」

ヴァンはまだぶつぶつと同じ言葉を繰り返し呟いている。

「うるさいな!折角明るくいってるのに暗くなるでしょうが!」

「いや、怒る所が違うような…?」

「いいのーーー!」

こうして、私の修行は始まっていった…。



次の日の朝早く、
私はヴァンにたたき起こされて、
凄く寒い外へと無理やりに連れ出されていた。

「さーむーいー」

かなり嫌味臭く棒読みで訴える私。
…当然のごとく無視されるわけなんですけど。

「さて、まずは魔法の基礎についてはじめようと思う」

「基礎?」

「あぁ…とりあえず【元素】はわかるか?」

「えーっと……」

魔法を使用する際に使われる元となる力。
それが所謂元素と言う奴で、
その元素は空気中にうようよと漂っていたりする…、
まぁ、自然の力なんだけど……。

「それが?」

「ふむ、そんなもんかやっぱり」

「他に何かあるの?」

「うむー、全て教えようとすれば、
何日間話し続けても終わらないので、今から最低限必要なことを言う。
一回しか言わないからちゃんと覚えろよ?」

「……ど、努力します」

元素とは、自然界に住まう精霊達の力。
私達が魔法を使う際には彼等の力を少しだけ貸してもらい、
炎を起こしたり、水を出したり…。

で、その力を借りると引き換えに私達が彼等に提供するのが、
魔力って言う精霊が持ちえぬ力。

…地味に持ちつ持たれつって訳なのよ、うん。

「……ふむ、ちゃんと覚えれたか」

「うん!もうバッチグー?」

「……で、次は、更に元素についてなんだが……」

「え…まだあんの?」

「まだって聞かれるならまだまだだが、
必要最低限を知っておかないと、魔法を使う際に自らの身を滅ぼすことになる。
わかったら、次もきちんと一回で覚えろよ?」

「頑張ります…」

元素とは、その地方、存在する精霊によって変化する。
大きくは二つ、【光の精霊】と【闇の精霊】で分配されているのだが…。

例えば私がよく使う炎の魔法。
これは闇の精霊の方に強く属している。
別に光の精霊だけしか存在しない地域でも使用することは出来るのだが、
その威力は言葉道りに、火を見るよりも明らかだ。そうだ。

光の精霊が強く持っている力は、
水、風、土、光…の4種類。

そして、闇の精霊の持つ力はこれ以外の、
炎、雷、石、闇…っと言うことになる。

もちろん、相対する力なので、互いに弱点ということにもなる。

説明するのも面倒なのだが、まぁ、一応って事で説明すると…。

水は、炎に強く、雷に弱い。
風は、石に強く、炎に弱い。
土は、雷に強く、石に弱い。

炎は、風に強く、水に弱い。
雷は、水に強く、土に弱い。
石は、土に強く、風に弱い。

光と闇は相対関係。

まぁ、もちろん魔力によって例外は存在する。
例えば、どんなに頑張ったとしても、
炎の温度が高ければ絶対零度の氷も蒸発するし、
土だって焼け焦げるし……。

「何だかこうして考えると、炎の魔法って相当強いね?」

「ん、その分扱いにくい魔法ってことなんだよ」

「へぇー……」

「で…今度は使う際の注意点だが……」

「えぇー!?まだあんの!?」

「だから、最低限は知っておかないとって言ってるだろ?」

「十分日が暮れるじゃん!」

「エリスが何も知らないのが悪いんだ」

「うぅ……確かにその通りだけど……」

…と、そんな調子でヴァンの魔法、元素についての話は日が暮れるまで続くのだった……。



んで…次の日のお昼。

「さて、基礎はこの辺にして、エリスが使える魔法のチェックに入ろうと思う」

「使える魔法のチェック?」

「あぁ、魔法使いと単に括られていたりするが、
魔法使いだってピンからキリまで存在し、得意分野ってのも存在している」

「つまり、ヴァンの場合は風の魔法が得意で?」

「全く使えないって訳じゃないが、俺は水と土と石の魔法が苦手だ」

「へぇー、光と闇で分れてるって訳じゃないんだね」

「あぁ、そこはあまり関係ないな。使えない奴の場合なら、一種類しか唱えらえれない奴もいるんだから」

「ふむふむ…」

ちなみに、立って話しているのではなく、
何故か表に用意されていた黒板にヴァンが説明に交えてイラストも描き、
私はその正面にあったみみっちい机に座り…。
と、そんな状態で魔法講座が行われているのは秘密だ。

「さて、そのチェックの方法なんだが、
一番簡単なのは全部の種類を一度使ってみることだな」

と言うと、ヴァンは魔法の名前を初級から順番に記載していく。

「そう言えば、炎の呪文を唱える際にファ・イじゃなくて、
ファって言うだけでも使えるのは知ってるか?」

「しらなーい」

「うぬ…本当にお前何も知らないんだな」

「うん、だからおせーてせんせー」

「……何かむかつくけどまぁいいか…」

どうでも良いけど、ヴァンってかなり絵がうまくて、
黒板に描かれているイラストを見ているだけでも非常に魔法についてよくわかる。

「えーっと、【ファ】って言うのはだな、炎の精霊の名前なんだ。
んで、これと同じような感じで、水の精霊の名前は、【レム】。
雷は、【エル】。土は、【グラ】。風は【デイ】。石は、【ダウ】…とこんな感じになっている」

「えー…じゃあ語尾にイとかつけた意味は?」

「んー…精神を集中するときの問題で区別をつけるためであって、
実際は詠唱なんてそんなに意味があるわけじゃないんだぁ、これが」

「そうなの!?」

「そうだな。だが、エリスみたいな未熟者は、
きっちーんと魔法の名前も詠唱も唱えないと、
うまいこと魔力の調整と精霊の交信が行えず、高度な魔法は使えない。
ってことになるだろうなっと…」

「しょんなぁ……」

がくっとうなだれる私。
だって一生懸命覚えたのに!?
私って覚えるの苦手なのに!?
将来的には要らなくなるって事!?
そんなバカな!?

ってな感じのショックから本当にうなだれた。
いらない記憶が過去の必要な記憶を消してしまうのよ…。

とまぁ、それくらい私ってば記憶力が悪いのでした。



それから一週間ほど経過し、
色々と魔法について理解し始めた頃だった。

「えーっと、私が使える系統の魔法は、
炎と、雷と、石で…苦手な魔法が水と風と土…と言う訳ね」

「見事に光と闇に分かれたな」

「うん、わかりやすくて良いね」

「いや…光の精霊しか存在しない地域では苦労するって事だから微妙だ…」

「えええええー・……!?」

まぁ、確かにヴァンの言う通り、
元素となる闇の精霊がいない所だとほぼ魔法が使えない人と変わらないって訳だし…。

「どうしたらいいのよ!」

「そんな事言われてもなぁ…俺の性かな?」

「何でよ」

「いや、俺が何か悪いことしたかなと」

「もう全部悪い」

「……はぁ…」

私の言葉にヴァンは苦笑いを浮かべながら後ろ頭をかいた。
きっと皆と同じくして、母さんならーとか思ったんだろう。
……偉大すぎる母親が憎いわ!!

「まぁ、良いか。そう言う事ならそう言う事で修行でもしよう」

「何するの?」

「いやー、頑張って生き残ってくれよな」

「はぁ?」

「2週間後に迎えに行くから」

「え?」

「いってらっしゃーい♪」

「ちょっとー!?」

ニコニコと微笑みながら、
ヴァンの手から放たれた青白い光が眩しくて、
私は思わず目を閉じた。

「……あの野郎………やってくれちゃうわね……」

光が収まって目を開いた時、
私が立っていた場所は、雪の残る寒々しい雪山の中ではなく、
木漏れ日の美しいなんとも綺麗な森の中だった。

「ちゃんと責任もって指導しろー!!!」

ヴァンは、私に転移魔法をかけて、
どこともわからない森の中に吹っ飛ばしてくれたのだった……。




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