「そいつを言っちゃいけねぇぜ!」





……誰かが私の名前を呼んでいる…。
何だかいまいち聞き覚えの無い声……。
でも、最近聞いたような…。

「あぁ…そっか…私滝に落ちて……」

死んだんだ。と口にしようとした時、
それを遮るようにして可愛らしい女の子の声で、
「死んでませんよ!」と言うのが聞こえた。

「……え!?」

その声に覚醒するようにして、
慌てて身体を動かそうとすると、
私の身体は嘘みたいに軽快に起き上がってくれた。

「あ…あれ?」

呆然としたまま軽く辺りを見回してみると、
私の左正面方向には、先ほど落ちたはずの滝つぼが見え、
そして右側方向には、誰が起こしたのか小さな焚き火……。

「起きたか」

その焚き火の先に……見知らぬ男の姿。

「……誰?」

男をにらみつけるようにして私が訪ねると、
その問いかけに男に代わってキアラが答えてくれる。

「レオンです!」

「…キアラは少し黙ってろ」

「えー!私が先にエリスさんと仲良くなったのに!」

「うるせぇな!!食われたくなかったら黙ってろ!!」

「………ピーマンが嫌いなくせに」

「関係ねーだろ!?」

見た感じ、どうやらキアラの知り合いらしい。
…多分、キアラは悪い奴ではないから、
この男も悪い奴ではないのだろう。

「えーっと……レオン?助けてくれたの?」

「ちっ…」

「むっ…!」

何が気に入らないのか、
レオンは言葉で返す事無く不機嫌そうに舌打ちをした。

「レオン、照れてるんですよ」

「照れてるんじゃねぇ!!」

「あー、うるさい。カルシウム足りてないんじゃないの?」

「うぬぬぬぬ……」

相当頭にきているのか、
顔にたくさん怒りの四つ角を浮かべながら、
レオンはその場に勢い良く立ち上がった。

「あら……」

そして、そんな彼の姿を見て、思わず私の口からこぼれた言葉。

「…なんだよ」

「顔の割には随分チビだね」

「………………………………………」

「あー…言っちゃった……」

「へぇ?」

すると、ものすごい声を上げながら、
レオンは私に向かって強烈な魔法をぶっ放してきた!!

「俺は…チビじゃねぇーーー!!!」

彼が放ってきたのは土の魔法。
大地はモグラが飛び出すかのようにしてこちらに迫ってくる。

「だぁーー!!死ぬ!!死ぬってば!!」

って言うと弱そうだけど、それ以外に例えが浮かばなかったのよ!!

「えーっとえーっと……土には……石だ!!」

その場に座り込んでいたので、避けられないと思った私は、
その魔法を防ぐことを考え、突き出した手に思いっきり魔力を集中した。

「あぁぁーーー!!石よ!!我を守りたまえ!!」

「駄目です!!エリスさん!!ここは闇の精霊が居ないから…逃げてー!!」

キアラがモンスターに襲われた時と同じように叫び声をあげている。
だが、とてもじゃないが、今すぐ動くことは出来ない私。

だったら……だったら防ぎきるしかない!!

「精霊が居なくて力が出せないなら…その分魔力を注ぎ込む!!!」

全魔力を込めて、私は目の前に防護壁を生成した。

「レオン!!やめてーーー!!」

もう、私には何も感じとれなかった。
キアラが叫んだ声を最後に………。



それはまるで、何百トンもの土砂が激突したようだった。
私の目の前の石の壁とそれがぶつかり、
爆弾が爆発したのかと思われるほどにそれらは弾け飛ぶ。

「へへっ……人間、やれば出来るって事だよね…」

私はその言葉の後、半分起こしていた身体を力なく地面に落とした。

「……ちっ…なんて野郎だ…」

「野郎じゃないもーん…」

…相殺。

もう指一本動かせないほどに力を使い果たしてしまったけど、
何とか助かってよかったぁ……。

「もーーー!!レオンのバカチビ!!!あれほど何度も注意してるのに!!」

「うるせーな!!それを言われると我慢できねーんだよ!!」

泣きそうな声でレオンに向かって叫ぶキアラ。
…キアラにチビって言われるのは平気なんだ……。

その後も何だかんだと言い争っていた二人。
私の事をすっかり忘れて日が暮れるまで喧嘩を続けていたのは凄いと思った。

まぁ、喧嘩するほど仲が良いって言うもんね…。

…それから、二人がやっと私の事を思い出してくれた頃。
私の魔力も何とか回復して普通に動き回ることが出来る様になっていた。

「……あの嫌味女の娘か…通りで随分とあり得ないことをやってのけると思ったぜ」

「あ、嫌味女なんだ……」

「他の奴になんて聞いてるか知らんが、俺はアイツの事はむかつく嫌味女としか思ってない」

「へぇー…」

何て言うのか、今まで聞いていたすばらしい意見以外をはじめて聞けて、
母さんにも人間らしい部分があるんだなとちょっと嬉しくなった。

「レオンとキアラはこんな所で何してたの?」

当然の疑問?私はまぁ、ヴァンにぶっ飛ばされたからあれだけど、
こんなに人気の無い森に居るんだから、きっと何か目的があるんだよね。

「お前には関係な……」

「私たちはですねー、この森にあると言う緑の宝珠を捜してるんですよー」

「へぇー、どんな宝珠なの?」

「教える義理はな……」

「えっとですねー、何でも腰痛や肩こりが一発で治っちゃうって言う癒しの石なんですよー」

「……誰か悩んでるの?」

「キアラ、お前ちょっと黙…」

「まぁ、レオンももう結構お年だから」

「………キアラてめぇ…」

「いつまでも若いつもりで恥ずかしがってるレオンが悪いのよ」

「…今すぐ妖精鍋にして食ってやる」

「あ、私ピーマン味だからやめといた方が良いよ」

「何で自分の味知ってんだよ!!」

…本当に仲が良いって言うか何て言うか…。
それにしても、レオンって若々しいなーとは思ったけど、
腰痛に悩まされるほどに年を食ってただ何て……。

「いくつになったの?」

「聞くな!!」

「えーっと……38だっけ?」

「……へぇー…見た目は若いのに…」

「キアラてめぇー!!」

…まぁ、見た目だけじゃなくて、
こう言う感じのところが子供っぽいから、
凄く若く感じるのかもしれない。

…そう言えば、母さんって一体幾つなんだろう……。



それから次の日、
あての無かった私は、
緑の宝珠を捜すというレオンたちにくっついてきていた。

「ここが緑の宝珠のあると言われている遺跡だ」

「…流石と言うか…随分緑だね」

「森の中にあるので風化されてしまったんでしょうね」

緑の宝珠と言うだけあってか、その遺跡は緑色のコケやカビなどでとにかく緑だった。
更に木などが絡まっていて非常に不気味だ。

「…とにかく行くぞ。来たくない奴は帰れ」

レオンはこの不気味な遺跡に何もためらう事無くずかずかと入っていった。
勇気があるのか、それともただ単に無謀なのか…。

私とキアラは一度顔を見合わせると、
レオンの後を追いかけて遺跡の中に足を踏み入れた。



遺跡の中には大量のモンスターが居て、
容赦なく私たちに襲い掛かってくる。

だが、予想以上にレオンが強く、
無数のモンスター達をへともせず、あっさりと倒していく。

「……流石、母さんの仲間だった人って事かぁ…」

何も出来ない私は、ただひたすらレオンから離れないように、
彼の背中にぴったりと引っ付くようにして進むのだった…。

「ねぇ、そう言えば何でキアラとレオンは最初から一緒じゃなかったの?」

「二手に別れてこの遺跡を探してたんですよ」

「そっかー、その方が好都合だしね…でも、キアラがモンスターに襲われる可能性は無いの?」

「えーっと…昨日言ったように、私って普通の妖精と少し違って、
光の力を持った者じゃないと姿を捉えることも、声を聞くことも出来ないんです。
そして、それとは別に私は光の力を持っている人を見極めることも出来るんですよ」

「ふーん…でもモンスターでも光の力を持ってるのは居るよね?」

「居ますねー…でも、何故か不思議と悪い心を持っている人には見つからないんです。これが」

「都合の良い能力だねー」

「そうですねー」

「あははは」

「うふふふ」

……と、レオンの影で世間話をする私とキアラ。
もちろん、レオンはその間も襲ってくるモンスターと戦っている。

「てめぇら!!人の背中で世間話してんじゃねー!!」

が、私が思うにモンスターの数を物ともしない強すぎるレオンが悪いと思う。
と言う訳で、何だかんだと敵を倒してくれる彼の影に必死で隠れる私なのだった。



そして、あっという間に遺跡の最深部へとたどり着く私達。
目の前では緑の宝珠がきらきらと光り輝いている。

…ちなみにここまではいとも簡単に何事も無く攻略できた。

まぁ、それはレオン一人の力の賜物と言う奴なのだが。

宝箱のトラップも簡単に取り外しちゃうし、
そこら辺に仕掛けてある罠も簡単に見切っちゃうし……。

何と言うのか、手馴れた泥棒って感じだったんだけど、
その手さばきは見事としか言い様が無い。

「レオン、気をつけて。ここからは魔法の力が封印されてしまうみたい」

「わかった」

流石妖精なだけあって、
キアラは人一倍魔法の力に関して敏感だ。

光と闇の精霊だけではなく、
その中でこの場所はどの精霊が優れているとかそう言うのもわかってしまうんだから。

……ヴァンも光と闇のどっちがその場で強いかってのくらいは修行でわかるようになるって言ってたけど…。

正直、キアラみたいな妖精のパートナーが居るなら、
そんな修行いらないんじゃないかなと思わされてしまう。

現にレオンはそう言うのは全然わからないらしいから…。
うーん…キアラが羨ましい。

「おい、嫌味の娘」

「なー!!なによそれ!!」

「俺はあまり剣術は得意ではない。よって、いざとなったらお前も戦え」

「わ…私も戦うって?」

「それなり剣を持っているようだから、それなりには戦えるんだろ?」

「ちょ…待ってよ!!」

「…しっかり気張れよ」

それだけ言うと、レオンは緑の宝珠に向かって走り出していく。
と、同時に、彼の姿は緑色の光に包まれるようにして消え去ってしまった。

「えー!?」

驚いて声をあげる私。
しかしそれを見ていたキアラはクスクスと笑う。

「幻術ですよ、緑の宝珠の守護者が施した最後のトラップの」

「えー…でも目の前には宝石があるし……。
あぁ…でも、レオンは消えた……」

「レオンってどうしてか幻術が効かない体質なんですよ。
…ちなみにこの先には落とし穴があって、
そこの中からは強力な魔力の波動が感じとれます」

「じゃあ、そこにあるってこと?」

「多分、あると思います」

「…そっかー……」

「さぁ、行きましょう!」

「……うぅ」

キアラに背中を押されながら、
私は嫌々手前の穴へと飛び込むのであった……。




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