- 「計画性が無いんです」
レオンたちと別れてから私は、
近くの宿屋で食事を取り………。
「おーい、こっち注文まだかー?」
「はーい!ただいまー!」
何故か、そこの宿屋でウエイトレスをやらされていた。
「うぅぅ……私としたことがまたお金も持ってないのにバカ食いしちゃって…」
まぁ、今回は流石に一銭も持っていなかったわけではないのだけれど、
普通に食べてたら全然財布の中身が足りなくて、
その足りなかった分を働いて返そうとしているわけだ。
「はぁ……それもこれもみんなヴァンの性よね!」
「こらぁ!口動かしてないで手と足動かせ!」
「は…はーい!!」
……そんな調子で私は一日中ウエイトレスを頑張った……。
そして、それから数時間後……。
「終わったぁー!」
やっとのこと開放されたのは夜の10時。
結局丸一日働かされてしまった…。
「疲れたぁ…」
ただで使って良いと言われた部屋のベットにゴロンと寝転ぶ私。
一番安い部屋のベットだけどまぁ、そんなに悪くは無いみたいだ。
「働かざるもの食うべからずぅ……眠い……」
本当に疲れていたのか、
その後あっという間に私は眠りの世界へと落ちていた……。
……どれくらい眠ったのだろう?
何だか辺りが騒がしくなってきたので私は目を覚ました。
「ん……何時?」
手近にあった時計を手に取るとまだ時間は朝の4時。
起きるには相当早い時間帯だ。
「なんだかうるさいなぁ…」
こんな時間に何を考えているのか、
廊下をひっきりなしに誰か彼かが走り抜けて行っている。
そして、何故か皆、口々に急げだの走れだの姿勢を下げろだの……。
「なんなのー?」
眠い目をこすりながら、私は部屋のドアを静かに開けた。
「う…げっほげほ!何これ!?」
とてもじゃないけど目を開けていられないくらいに廊下は煙にまかれていて、
もう誰が見ても早く逃げ出さないとやばいような状況まで事は発展していた。
「火事ー!?」
ヴァンの性で手荷物1つ持っていなかった私は、
そのまま廊下に飛び出し大急ぎで階段を駆け下りていく。
下の階層はもうすでに普通ならば通れないほどに火の手が回っていたのだが、
そこは腐っても魔法使い。
自分が通れるように魔法で道を確保して…。
と言っても私の力では本当に一部しか消せないのだが…。
何とか間とか無事に脱出する事は出来た。
「はぁー……一体なんだって言うの?」
表には宿屋に泊まっていた沢山の旅人達の姿があった。
私をこき使ってくれた宿屋のおじさんの姿もそこにはある。
彼等の話を遠くから聞いていると、
どうやら泊まっていた客は全員無事に非難できたらしい。
と、そんな時宿屋のおじさんが私に気がついて声をかけてきた。
「お嬢さんも無事だったか」
「うん、何とかね」
その後おじさんに話を伺ってみたら、
火の元もしっかり確認したし、火事になるような原因が何も思いつかないらしい。
「と言うことは…放火?」
「うーん…誰かに恨みを買うような覚えは無いんだけどなぁ…」
と、おじさんは頭を抱えてしまう。
結構口は悪いし仕事に対する姿勢は厳しい人みたいだけど、
誰かに対して恨みを買うような人じゃないと思う。
それに、脱出の際に、僅かだけど…魔力を感じた。
普通に使用したのとは違う、時限式の魔法を使った際の独特なあの感じ…。
例えるなら後味の悪いご飯を食べた時のような気持ちね、うん。
「あいつらだよ!あいつらがやったに決まってるよ!」
と、そんな時人ごみの中心のほうで誰かが声を上げた。
…声の感じからするとどうやら子供のようだ。
大人たちもその子供の発言に続いて、
「確かにあいつらなら…」などと口々にささやき始める。
「おじさん、あいつらって?」
「え…?あぁ、あまり余所者のお嬢さんに話すのはどうかと思うが…」
と、言いつつこぼしてくれるのは大人の基本って訳で…。
「へぇー……盗賊団かぁ」
おじさんの話によれば、ここ最近この近辺に怪しい盗賊団の連中が住み着き、
事あるごとにやってきては金品を要求してきたとか…。
でも、おじさんの宿屋に二日ほど前に泊まっていた、
独り言の多い小さい男の人が追い払ってくれたそうで。
まぁ、独り言の多い小さい男の人って言うのはきっと、
キアラと話すレオンだろうと思うけど……。
「うーん……でも、私にはそんなチンケな盗賊がやったなんて思えないなぁ…」
「まぁ、こういう事態になってしまったのは仕方がない。
お嬢さん、ここから真っ直ぐ南の方角へ向かえば城下町がある。
歩いて行けば半日くらいかかるが、余所者のお嬢さんは早いところこの村を離れると良い」
そう言うとおじさんは私に小さな袋を手渡してくれた。
「それは、働いてもらったお礼だ。
これからはきちんとお金に余裕を持って宿屋に入るんだぞ」
「えー!?でもおじさん家が焼けちゃったのに…悪いよ」
「なに、しばらくは娘の家にやっかいになろうと思っているし、
わしの娘の家はここから歩いて3時間かそこらだ。
…それに、それはお嬢さんが働いて手にしたお金だ。
遠慮せずに受け取りなさい」
「うぅ…ありがとう…おじさん大変なのに…」
「新しい娘が出来たみたいで楽しかったよ」
おじさんはそう言って微笑み、静かに歩き去っていった。
……誰だか知らないけど、あんな優しいおじさんを酷い目に合わせた奴…許せない!
「……確か、盗賊団は西のほうにある山に居るって言ってたよね」
辺鄙な盗賊程度じゃ時限魔法なんて使えないだろうけど…。
結構高度な魔法だし?
何らかの情報程度は手に入れられるかもしれない。
そう言う時のお約束だから?
「…と言う訳で…」
おじさんにもらった袋を強く握り締め、
私は盗賊団のアジトを目指して進むのだった。
………そして、盗賊団のアジト。
「だーしーてー」
「うるせぇな!ちょっとは黙ってろ!」
あっさりと捕まってしまう私。
と言うかここに来る途中にあった罠にかかって動けなくなっているところを、
盗賊団の下っ端に発見され、そのまま連行されて牢屋へとぶち込まれたのだが…。
「はぅ……私ってばここでこいつ等のお慰みものにされるのね…」
「………こんな色気の無いおチビちゃんはちょっとなぁ…」
「うるさいな!バカ!!」
レディーに対して気遣いの出来ない牢屋番に近くに落ちていた小石を投げつける。
それは見事にそいつの頭に激突して砕け散った。
「……頼むから少し静かにしてくれよおチビちゃん」
「むかー!私おチビちゃんじゃないもん!17歳のレディーだもん!」
「はいはい…って17!?マジかよ!」
「な…なによー!!」
「ははは…俺と同じ年かよ……」
牢屋番は私の全身を舐めるようにして見回すと、
私を馬鹿にするように鼻で笑った。
…失礼な奴!
「…アンタ、盗賊なんてやって恥ずかしくないの?」
「うっせーな…俺には俺の事情があんだよ!」
「へぇー、どんな事情?」
「ここの親方にガキの頃拾われてからずっと面倒見てもらってっからだよ」
「ふーん……」
こんな事考えたら悪いかもしれないけど、
だからって私には盗賊なんてやろうとする気持ちが理解出来ない。
だって、私は…お金が無くても何とかなってるし?
「………てめーだって一人であんなところウロウロしてて、何か事情があったんじゃないのかよ」
「事情…って言うか、私ヴァンに飛ばされてこの辺に来ちゃっただけだし…」
…私の場合は事情って言うよりか、
ただ単にある意味強制労働って言うか…。
「…何か急に騒がしくなってきたんじゃない?」
「多分、親方が帰ってきたんだよ!俺ちょっと行ってくる!」
牢屋番はそう言うと駆け出していった。
良いのかなぁ…見張りしなくても……。
それからしばらくして、ざわめきの感じが先ほどと変わってきた。
さっきは何となく嬉しそうだったのに、
今はちょっと違う…?何だか感じが悪いような…。
誰かが言い争っている声が聞こえてくる。
…これはさっきの牢屋番と…会話の感じから親方かな?
「……えーっと…何々…?」
と言う訳で思いっきり聞き耳を立てる私。
え?悪気は無いかって?…聞こえるような声で喧嘩する奴等が悪い!ってことで…。
「…嘘だろ!?親方!!」
「…あぁ?何だてめぇ、女にそれ以外の使い道があるってのか?」
「で…でも、今まではそんな事しなかったじゃないか!」
「うるっせぇガキだな…。大人には大人の事情ってもんがあんだよ」
「だからって…人買いに売ること無いじゃないかよ!」
……えーっと…?
この会話から察するに私の事を話してる訳で…。
つまり、私が人買いに売られるって話し…?
「やば…やばいじゃん!?
こんなしょぼい牢屋ならいつでも抜けられるけど…。
でも抜け出した後の保障が……はぅー…」
なんて頭を抱えていると、
牢屋番がものすごく悲しそうな表情でこちらへと戻ってきた。
「ねぇ、今の話ってマジ?」
どう考えても彼に聞こえるくらいの声で話しかけたのに、
彼は全くこちらの疑問に答える様子は無い。
「ちょっと!聞いてんの!?」
「うるせぇな!ちょっと黙ってろよ!!」
少し大きな声を出すと、凄く不機嫌そうに私に怒鳴りつけると、
牢屋番は小さく舌打ちをして黙り込んでしまった。
それ以降は、何度声をかけても決して彼が答えることは無かった。
…まぁ、信頼してた人に裏切られたみたいな感じだったし、
仕方ないっちゃ仕方ないのかも知れないけど…。
「おい!起きろよ!」
「うにゃ……もう朝?」
牢屋番に声をかけられて、私は目を覚ます。
洞窟の中だから時間はわからないけど…、
あんまり寝てないような気がする…。
「なによぅ」
「人買いに売られたくなかったら、俺と一緒に来い」
「……ご飯は?」
「は……?お前何言ってんだ?」
「あ…れ?ごめん、寝ぼけてた」
「…ったく…こんな時に寝ぼけるなんてのんきな奴だな…」
「むぅー…秘策はあるの?」
「夜の食事に睡眠薬を混ぜておいたから、皆ちょっとやそっとじゃ起きない」
牢屋番はそう言うと、牢屋の鍵を開け、
私に手を差し出してくる。
「私、エリスって言う名前があるから、これからお前って呼ばないでよね」
地面に座り込んでいた私は、
彼の手をとりゆっくりと立ち上がる。
「…俺は…アークだ」
アークはそれだけ言うと、私の手を引き駆け出した。
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