- 「適当に出来た光の剣」
「ねぇ!どこに向かってるの?」
最初に表に出た時にはまだ真っ暗だったのに、
今は朝日に照らされて徐々に辺りは明るくなってきていた。
時間にしてみればもう1時間近くは走りっぱなしだ。
うーん…体力ついたもんね…。
「南東の城下だよ!あそこの城で助けてもらうんだ!」
アークは苦しそうに肩で息をしながら答えた。
気がついてみれば、顔からは大量の汗を流し、左手で自分のお腹を押さえている。
「ね、アーク!ちょっと休もうよ!私疲れてもう走れない!」
や、私はそんなに疲れてないんだけど、
アークが相当しんどそうだったから…。
「バ…バカ言うな!!親方に見つかったら…すぐに追いつかれちまう!!」
「え…でも、親方も晩御飯食べてるんでしょ?」
「いや…親方はあの後出かけたから食ってないんだ…」
「うぅー!でも帰ってこないなら…」
「多分もう帰ってきてるよ…」
アークがそう言うと、
私達のすぐ背後から馬のひづめの音が聞こえてきた。
「くそっ…!もうきちまったか…!!」
その刹那!私のすぐ右側を一本の矢が走り抜ける!!
「アーク!!」
「ぐぅ…くそっ…!!」
それはアークの右ふくらはぎに深く突き刺さっていた!
彼の足からは生々しく血が流れ出してくる…。
「残念だったな、アーク」
声に振り返ると、馬にまたがるいかにも悪そうですって男が数名。
私達の方を見てニヤニヤと微笑んでいた。
「親方!!考え直してくれよ!!こんな事する人じゃなかったじゃないかよ!!」
「うるせぇ!!あのお方が生贄を必要としてんだよ!」
「…あのお方?生贄…?そいつは一体何のことなんだ…?」
「へっ、てめぇはここで死ぬんだから知ったところで無駄だが、
冥土の土産に教えてやんぜ」
そう言うと親方はあのお方とか言う奴の事について語りだす。
どうやら、そいつが裏でこの親方を操っているみたい…。
「そう…あのお方、大魔法使いバラン様は偉大なお方だ!」
魔法使い、バラン…聞いたこと無いけど、
多分そいつがおじさんの家に火を放ったんだ…。
許せない!!
「…さて、そろそろアーク君には死んでいただこうかな…」
親方は腰に携えてあった剣を静かに引き抜くと、
ゆっくりこちらへ近づいてくる。
「目ぇ覚ませよ!!親方!!」
「うるさい!!死ねぇ!!」
親方がアークに向けて剣を振り下ろす!!
「あー…ちみたち…私が居るの忘れてません?」
私は親方に向けてある程度手加減して炎をお見舞いする!
「うぎゃああ!!」
「親方!!てめぇエリス!!なにしやがんだよ!!」
「…なんでアークに怒られないとならないのよ…手加減したのに…」
口を尖らせたまま私はパチッと指をはじく。
すると親方に引火していた炎は音も無く消え去っていく。
「がはぁ…!ガキ…貴様魔法使いだったのか…!!」
「うん、まぁ、そうだね」
私が魔法使いだと知ると、親方の顔色は徐々に青ざめていく。
そんなに魔法使いが怖いんだろうか?
「おい!てめえら!ボーっとしてないでさっさと矢を放て!!」
親方が声をあげると、親方の後ろにいた雑魚どもが私に向けて次々と矢を放ってくる。
「ははぁーん!余裕余裕!!」
私は自分の目の前に石の壁を生成し、
いとも簡単に全ての矢をはじき返す。
「ぐぬぬぬ…!!分が悪い!!一旦引くぞ!!」
「一昨日きやがれってんだー!」
思った以上によわっちくて、
これなら一人でさくっと脱出できたんじゃない?
なんて思わされてしまう……。
「おい!エリス!!」
「あ、アーク…怪我は?」
「…くそっ!ふざけやがって…」
何が気に入らないのか、アークは凄く不機嫌だ。
「なんなのよー」
「…俺が助けてやらないでも、自分一人で逃げられたんじゃねーかよ…」
「そんなことないよ、多分」
「はぁ!?あれだけの矢にびくともしない奴が、
盗賊程度にやられるわけねーじゃねーかよ!!」
「むぅ……」
何だか気に入らない態度だったけど、
アークの足の怪我が凄く痛そうだったので、
私は自分の服の袖を破き、そこにヴァンに教わった止血を施してあげた。
「はい、これでおっけーだね」
「……へったくそだなぁ…」
「ほ…ほっといてよ!!」
…一夜漬けで覚えたんだから、下手でも仕方ないじゃん!
まぁ、今にも包帯もどきはほどけてきそうだけどさ…。
「止血ってのはこうやってするんだよ」
アークは私のまいた包帯もどきを一旦解くと、
手際よく上手に足に包帯もどきを巻きなおした。
「へぇー…上手だね」
「親方に教わったんだ…」
…親方…前はどんな人か知らないけど、
これだけ悲しそうな顔をしてるって事は全然違う人だったんだろうなぁ。
「魔法使いバランってどこにいるのかな?」
「は…?しらねーよ…ってお前!?」
「うん、やっつけてやろうかなって」
私に出来るかわからないけど、
このままじゃアークがかわいそうだから…。
私を助けようとしてくれたし、何か凄い一生懸命だし…。
「行くなら俺も行くぜ」
「何か出来るの?」
「…あぁ、少しなら剣が使える」
「剣は?」
「……無いな」
「駄目じゃん」
アークはがっくりと肩を落とし、その場に座り込んでしまった。
…折角かっこよく決めたのにねぇ…?
「あ、そだ…アークこれちょっと持ってみて」
「あ?」
私は腰に携えてあった剣を引き抜き、それをアークに手渡す。
「…折れてるじゃねーかよ!」
「うん、でもヴァンいわく、
物に魔力を込めて武器として使える人がいるって話だから、
もしかしたら、出来るかなーって」
「…お前、前も言ってたけど、そのヴァンってもしかしてあのヴァンか?」
「それ色んな所で聞かれるけど、間違いなくあのヴァンだと思うよ」
「…ちっ…お前じゃなくてヴァンがいてくれたらバランも楽勝で倒してくれただろうに…」
「…悪かったわね」
なんでこのアークってばいちいち私につっかかってくるんだか…。
「えーっと、まぁ、それで剣に魔力を込める方法なんだけど…」
もし出来たなら相当な戦力になること間違いない。
なんてったって魔力が切れるまでは形も長さも自由自在!って奴だからね!
「なんだよ…ただ剣先に向けて魔力を流すだけか…」
「それが難しいんだよ。私まだ出来たことないもん」
「よしっ…とにかくやってみる」
…まぁ、アークに才能があるかどうかは知らないけど、
人間は皆少なからず魔力を確実に持ってるらしいから…。
「うぐぐぐおおお!!」
……アークは何を考えているのか、
よくわからない声をあげながらむちゃむちゃ手に力を込めている。
どうやら、ちょっと魔力について勘違いしているみたい。
「あのね、アーク。魔力って言うのは力を込めて引き出すものじゃないんだよ?」
あぁ、ちなみにこれは私がヴァンに言われた言葉なんだけどね…。
「む…じゃあどうやればいいんだよ」
「あのねー」
私はアークの背後に回りこみ、
彼の背中側からそっと彼の両手を握り締める。
「だぁー!なにしてんだよ!」
するとアークは慌てて私の手を払いのけ、私の事も突き飛ばしてくれた。
「何よ…折角コツを教えてあげようと思ったのに…」
「…そ、そりゃ悪かったな」
「じゃあ、もう一回ね」
私は先ほどと同じようにアークの背後に回りこみ、
彼の背中側からそっと彼の両手を握り締めた。
「いい?力を抜いて、頭の中を空っぽにしてー……ゆっくり息を吐く」
「…力を抜いて…頭の中を空っぽにして……ゆっくり息を吐く……」
「そして、呪文ー。我が声に答えたまえ、いでよ光の剣!ってな感じかな」
「……我が声に答えたまえ…いでよ光の剣!!」
すると次の瞬間、折れた剣の先端に幾つもの無数の光が集まってきて、
あっという間にそれは一本の立派な剣の形へと変化した。
「で…出来た……」
それは非常に美しい金色の光を放っていた。
適当に言った言葉でまさか本当に光の剣が出来てしまうだなんて…。
一体誰が想像出来るだろう?
「出来た…!出来たぞ!エリス!!」
アークは子供のような笑顔で私の方に振り返る。
が、私と目が合うと、何だか気まずそうに目をそらしてしまった。
「って…あ、ごめん。もう離しても良かったんだね」
「そうだよ…全く……洗濯板をいつまでも押し付けやがって…」
「せ……せんたくいたぁー!?」
その後、アークが足を怪我していたのも忘れて、
私は彼の顔面に思いっきり強烈な回し蹴りをかましていたのだった。
それから私は、アークいわく、
最近親方がよく出かけていたと言うところへやってきていた。
「うーん…これはもしかして当たりかなぁ?」
「かもな」
私達の目の前には何と言うか、
いかにも悪い人が住んでますと言った感じの塔が聳え立っている。
「…良し、行くぜ!」
「あ、ちょっと待って…正面から行くの?」
「…裏から回り込むのか?」
「わかんない、はじめてきたし」
私達は、とりあえずこそこそと隠れながら塔の周りをぐるっと回ってみた。
裏口らしきものは無かったけど、別に罠っぽいものも仕掛けられている様子は無い。
「まぁ、大丈夫かな?」
「ほんとかよ…」
そして、私達は塔の中へと進入していった。
…まさか、中でそこまで苦労させられるなんて思っても見なかったけど…。
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