- 「果てしなく長く螺旋階段」
はて、もうどれくらい昇っただろうか。
まるで幻術にかけられているんじゃないかと思わされるくらいにそれは繰り返されていた。
いけどもいけども景色は変わらず、
窓も無いので外を眺めて気分転換ってな事も出来はしない。
……人間の集中力はもって2時間だと聞いたことがある。
そんな理屈があったとしても、
同じ景色ばかりを目にしていたら、それよりもっと早く集中は途切れるであろう。
……はて、私は一体何段の階段を昇ったのだろうか?
「あーきーたーーーー!!!」
突如大声を上げてその場にべたっと座り込む私。
だってやってらんないじゃん!?
「……俺も飽きてる」
アークも疲れたのか、大きくため息をつくとベタッと座り込んだ。
「エリスはどれくらい昇ったと思う?」
「えーっと…500くらいまでは数えてたんだけど……」
「そっか、そんなもんか…」
頭の中で数えてたけど、500と頭の中で叫んだのは、
何だか随分と前な気がする。
同じ景色同じ風景、同じ暗さに同じランプに同じ壁の色。
「つまんない」
「だからって帰るのも大変だろ?」
「うぅー…」
こんな塔ぶち壊してやりたい……。
「お?」
「…なんだ?」
「名案じゃない?」
「とりあえず、違うって言っとく」
だが、そう決めた私を止めることなどできはしなかった。
「石達よ!!我が呼び声に答えて唸れ!!」
私が呪文を唱えると、
塔はゴゴゴゴゴと唸り声の様な音を立て、
なんともあっさりと砕け散っていった。
そして、それから数十分後。
崩れた塔の中から姿を現す私とアーク。
「むちゃくちゃするんじゃねー!!」
「…てへっ♪」
「かわいく笑っても許せるかー!!」
天空を貫くほどに高く目の前に聳え立っていたはずの塔は、
今はとにかく大量の瓦礫になり、
私の目の前に空しくつまさっている。
「うーん……」
だが、昇った段数に比べるとやはり瓦礫の量は少ない。
……何かの魔力でそれ以上上に昇れない様に細工がしてあったんだろう。
「おーい、バランとか言う魔法使いー!でてこーい!」
まぁ、呼んだだけで出てきてくれるなんて思っちゃいなかったけど、
物は試しということで、私はその魔法使いに声をかけてみる。
「なんじゃーい!!」
すると、嘘みたいな話だが、
瓦礫の中からなんとも温厚そうな爺さんが姿を現した。
「……全く…めちゃくちゃな事をしおる……」
爺さんは服についたほこりをほろいながら、
ゆっくりとこちらに近づいてきた。
親方が言うには凄く悪そうな魔法使いだったけど、
実際のバランっぽい人は全然温厚でむしろ優しそうだった。
「お爺さんがバラン?」
「うむ、いかにも…お嬢さんは?」
「私は、エリス。…実はかくかくしかじかで…」
遠くからアークがそんな簡単に信用していいのか?
と言う顔で見ていたけど、私はとりあえずバラン爺さんに親方の事を話してみた。
「あぁー……アイツか…アイツならこの間、時限魔法のビンを一本買っていったのぅ。
何に使うのか知らんが、3倍の値段で買うと言うので売ってやったんじゃ」
「え…って事は、爺さん!アンタは親方に何か魔法をかけたとかじゃないのか?」
「ふむ…何を勘違いしているのか知らんが、わしはそんなことしとらんよ。
神様に誓ってもいいぞい」
「そ……そんな……」
……やはり、バラン爺さんは別に悪い人じゃないみたいだ。
うーん…そう考えると悪いことしちゃったなぁ…。
「うー…お爺さんごめんなさい。塔ぶっ壊しちゃって…」
「いやはや…この塔を壊して昇ってきたのは、
お前さんとあのエフィナくらいじゃわい……」
「えー!?またでたー!!」
「…またでたってお前さん……」
そりゃ、またでたーって叫びたくもなりますよ?
だって、あっちいってもこっちいってもエフィナとヴァン。
…マジ何者なの?あの二人ってば…。
「な…なんと!?お前さんあのエフィナの娘か!!」
「嘘だろ……?」
「うーん…多分、ヴァンとファナが言うには…間違いないっぽい」
そう言えばアークにも言ってなかったけど、
アークとバラン爺さんは口をぽかーんとあけたまま固まっていた。
…そんなに以外ですか?
「しかしまぁ…親子揃って…やることは一緒じゃのう!!」
バラン爺さんは非常に見ていて爽快なほどに豪快に笑う。
私もつい吊られて笑ってみるが、爺さんが手に持っていた杖で軽く小突かれた…。
「まぁ、それで勘弁してやるわい。面白い話も聞けたしの」
「どうもスイマセンでした…」
「そんな事より!それじゃあ親方は一体どうして?」
「うーん……。
1、元からあぁだった。
2、溜まっていたストレスであぁなった。
3、何か吹っ切れた」
「どれも微妙だーーー!!」
あぁーと叫びながら頭を抱えるアーク。
まぁ、彼には悪いけど、やっぱり1番の元からってのが一番そうだと思う。
…別に魔法にかかって悪いことしてるって感じでもなかったしね?
「ふむ…もしかすると、闇の魔王サタンが復活したと言う噂を聞いたが、
お前さんの親方がおかしくなったのはそれの影響もあるやもしれんの」
「……魔王サタン?」
言われてみれば、そんな奴も居たっけ…。
って言うか、私は最初そいつを倒すために旅をはじめたんじゃ?
うーん…最近出てこないからすっかり忘れてたよ…。
「魔王サタンか……もしそうなら、この俺が絶対に倒してやる!!」
と力強く言うと、折れた剣を力強く振り回すアーク。
凄くかっこ悪いのは言うまでも無い。
「…お前さん達、魔法の修行はしっかりつんでおるのか?」
「あ、私は今一応修行中っぽいよ?」
「俺は……最近この光の剣をエリスに教わった」
「光の剣とな?ちょっと見せてみ」
「あぁ!」
バラン爺さんに言われて、アークは以前に剣を呼び出した時のように精神を集中し始める。
が、それから何十分粘っても剣は現れず、
アークはその場に力尽きてぶっ倒れてしまった。
「うーん…まぐれだったのかなぁ?」
でも、まぐれであんなに立派な剣が出せるわけないしねぇ?
「ちとお前さんその剣が出たときの状況を正確に再現してみせてくれんか?」
「再現?してどうするの?」
「それで魔法使いのタイプがわかるんじゃ」
「タイプって?」
「…知らんのか」
その後、バラン爺さんは私達に魔法使いのタイプについて教えてくれた。
そのタイプは大きく分けて三種類。
使い魔と協力して精霊との交信をよりスムーズに行う使い魔系。
自らの魔力だけで特殊な空間などを作り出したり、物を召還したり出来る魔道系。
そして、物や剣に魔力を込めて戦う戦士系。
「ちなみに、エフィナは使い魔系であり魔道系であり、戦士系であり…まぁ、特殊系じゃな」
「む…また母さんが褒められた…」
「気に入らんのか」
「うん、私が落ち毀れみたいじゃん」
「これからじゃよ、お前さんは」
「うーん……」
まぁ、確かに生まれながら出来る人間は居ないって言うけど、
15年前ったら私と母さんの年ってそんなに変わらないはずだし、
そう考えるとやっぱり母さんは優秀なんだなーっと…。
「そんなことより、ほれ、再現せい、再現」
「あー、うん」
そう言われて私はアークの傍に小走りでかけよる。
…なんでかわからないけど、
アークはさっきから固まって動かない。
「アークー?」
「え!?あぁ…うん、大丈夫だ」
「おっし、じゃあ行くね」
「う…うむ」
以前に光の剣を作り出せた時のように、
私はアークの背中側に回りこみ、彼の手をそっと握る。
「わ…我が声に答えたまえ!いでよ!光の剣!!」
「わひゃあ!」
するとまぁ、嘘みたいに光の剣は現れ、
バラン爺さんはそれに驚いたのか、
腰を抜かして座り込んでしまった。
「で…出来たし……」
「ふーむ……」
「どうなの?」
「ふむ、多分、エリス…お主の魔力に刺激され、
アークじゃったか…?光の剣を生成する事が出来たんじゃろう」
「…じゃあ、俺には魔力が無いって事なのか?」
「いや、むしろ逆じゃ。在り過ぎて制御できておらんのじゃ。
それがエリスの魔力でうまいこと調整されて生成できたと……」
「へぇー……面白いね、それ」
「だが、それではエリスが居ない時には何も出来ない役立たずじゃな」
「ぐっ……!」
アークの反応が面白かったのか、
バラン爺さんは非常に爽快な声で笑う。
私もそれを真似て笑ってみる。
今度は小突かれない。悪いことしてないし?
「アーク、お主わしの下で修行せんか?
立派に魔力の調整が出来るようにしてやるぞ?」
「しゅ…修行!?」
アークは驚いたと同時に私の方をチラチラと見やる。
…親方のこともあるし、やっぱり気になるのかなぁ?
「とりあえず、その親方はわしが悪さ出来んように懲らしめてやろう。
それでおぬしの心配は1つ解消されるじゃろ?」
「あ…あぁ、そうだけど……」
「そ、れ、と……」
バラン爺さんはお茶目に指を左右に振りながらそう言うと、
そっとアークに耳打ちをした。
一体何を話したんだろうか?
アークは顔を真っ赤にして顔から煙を噴出していた。
「どうするの?」
「う…うん、俺、修行してみるよ」
「そっか、頑張れ」
「あぁ…それで、修行が終わったらまた会いに行ってもいいか?
その時は、エリスに守ってもらわなくても良いくらいに強くなってるから」
「うん、いいよー」
「本当か?!」
「だって、友達じゃん?」
「……と…友達……まぁ、そうだな、うん」
何が不満だったのか、アークはボソボソ小声で何かつぶやいている。
……何なんだか、よくわからないけど気になって仕方がない。
「言いたい事があるなら言えば?」
「いや…修行が終わって強くなってから言うよ……」
「むぅー…まぁ、別に良いけどさ」
そんな私達を見てバラン爺さんは楽しそうに笑っていた。
…何が面白いんだろうか…。
「エリス、お前さんはこれからどうするんじゃ?」
「んー…バランお爺さんが親方を懲らしめてくれるなら、
私この近くの城下に行ってみよっかなって」
「ふむ…そうか。城下はここから南東…こっちの方じゃな。
今から行けば日暮れにはたどり着けるじゃろ」
「そっか…ありがと!」
私はバラン爺さんにペコりと頭を下げると、
二人に無言で手を振りながら駆け出した。
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