「時が経つのは早いもの?」





「……うっひゃあー…」

もう日が暮れてきて辺りは暗かったというのに、
その街はキラキラと眩しく輝いていて、
まるで昼間の様な明るさだった。

「…建物の一つ一つが宝石だよ…?」

その眩しい輝きや安っぽい宝石ではなくて、
世に言う一級品と呼ばれる品の数々だった。

「うーん…これを売り出せば幾らになるんだろう」

なんてすぐ傍にあった建物を撫でていると、
静かだった街の中が急に騒がしくなってくる。

「おい!広場のほうに音楽隊が着てるんだってさ!」

「素敵な男の人達らしいわよ!」

なーんて声が。

「……音楽隊かぁ…」

音楽と聞けば、彼のことを思い出す。
そう、超金回りの良い、超素敵でカッコいい男リード。
アークなんかとは比べ物にならない。

まぁ、私は年上が好きってのもあるけどね?

「リードだったらあんまり会いたくないなぁ…」

なんて思いつつもささやかな期待を持って、
私は人々がかけて行く広場の方へと足を運んだ。



広場には予想以上の人だかりで、
とてもじゃないが中心部の様子を確認することは難しい。

が、黄色い歓声が沢山聞こえてきているので、
その中に居るのが美男子である事は確認せずとも理解できる。

更に、彼等が叫んでいる名前を聞けば……。

「…あれ?エリス……?」

なんて思っていた矢先、私は誰かに背後から声をかけられた。

「……あは、こんばんは」

えぇ、まぁ、案の定…リード君でしたとさ……。



それから次の日の朝、
昨晩はもう時間的にお店も殆ど閉まっていたので、
一緒に朝ごはんを食べようと約束を取り付けられた私は、
さくっと宿屋に泊まって早寝早起きの爽快な朝を迎えていた。

「うーん、何て言うか…会いたくないけど…会いたい……」

リードと一緒に居ると凄くどきどきするし、
楽しいし、うきうきするし…でもちょっと心苦しい…。

「あぁ…恋って複雑…」

とか何とかやりながら、私は宿屋で借りた服に着替えると、
リードと約束したレストランへと足を運んだ。



……正直、私はそのお店の前へやってきた時、
場違いだったかな?と心の底から思わされた。

「えーっと……レストラン…カリメア…ってこれだよね?」

そこは、入り口で店員がドアを開いて迎えてくれて、
床には真っ赤な絨毯が敷き詰められていて、
中に入れば金ぴかのカウンターに金ぴかのテーブルで……。

「うぅ…眩しい!黄金が眩しいっ!!」

誰も見ていないのだったら、
間違いなく私は、それを盗んで逃げ出して遠くでうっぱらっているだろう。

ぶっちゃけ、一生遊んで暮らせるほどの黄金がここには並んでいる訳だし…。

「エリス、よだれでてるよ?」

「え!?マジで!?嘘!!」

と言われて、慌てて袖で口をぬぐってしまう私…。
あぁ…周りの視線が痛い……。

「そんなに緊張しないでいつも通りでいいのに」

「…そんな事言われても……」

リードは私を見てニコニコと微笑んでいる。
…その微笑が余計に私を苦しめる……。

あぁ…私って田舎娘……シンデレラ!?
いやいや…なんでもないです…。

「じゃあ、予約しておいたからこっちにおいでよ」

「うん」

この時は気がつかなかったんだけど、
私ってば緊張して変な小走りをしていたらしい。

…テーブルに着いた時にリードに言われて気がついた。
はぁ…切ないよぅ……。



それからリードはこの街について色々と教えてくれた。
何でもお爺さんがここで宝石商をやっていて、
その性もあってか家は凄く大金持ちらしい。

「良いなぁ…」

指をくわえたままぼそっとつぶやく私を見て、
リードはそんなことないよと笑う。
相変わらずその笑い方は変わってなくて、
すっごく優しくて落ち着く。

「そう言えば仲間には会えたの?」

「え?あぁ、うん。おかげさまでね」

何でも仲間は昨晩広場で演奏を行っていた人達らしい。
あれだけの歓声だから、やっぱり相当カッコいい人達なんだろうなぁ…。

「でも、一人は今朝帰っちゃったから、もう一人を今から呼ぶね」

そう言うとリードは以前も持っていたあの恐怖のバックから、
なにやら四角くて細長い物体を取り出す。

「あ?もしもし、今カメリアに居るんだけど…うん、うん」

……独り言を言っている。
が、誰かに伝えているようだ。
一体何をしているんだろう?

「今から来るってさ」

「本当?」

「うん」

「ってか今の何」

「え…あ、これね」

何でもそれは最近開発された新種の魔法機具で、
遠くの人と好きな時に幾らでも魔力を使って話せるらしい。
うーん…私の知らない間に世の中はドンドン便利になっていく…。

「あ、来たよ。エリス」

それから5分としないで私達の前に現れたのは凄く綺麗な女性で、
見た瞬間驚きのあまり口が開いたまま閉じなくなってしまっていた。

まるで、アークとバラン爺さんが、私がエフィナの娘と聞いたときみたいに。

「エリス、こちら僕の奥さんでライアって言うんだ」

「へぇー…奥さんなんだ…美男美女だねえぇー!?」

思わず飲みかけの紅茶を噴出しそうになった…。

「け…結婚してたの?!」

「あれ?言ってなかったっけ?」

「超初耳!!」

……結婚してたなら、私みたいなチンチクリンになんて目もくれないよね…。
それにこんなに綺麗な奥さんなら……。
長い金髪が美しくて吸い込まれそうな青い瞳……見とれるわ……。

「はぁ……」

それに比べて私は……。

スプーンに映った自分の顔を見て、
超絶心から凹む私なのだった……。



それから食事を終えて、今日家に帰ると言うリード達を宿屋まで送ると、
することも無く自腹で泊まった安い宿のベットにゴロンと寝転がった。

「……神様って不公平だよね」

と、この時ふと思ったけど、
ヴァンって一体どうやって私を迎えに来るつもりなんだろう?
まさかどこかに何か怪しい装置でもついてる!?

あわくって自分の衣服や髪の毛を調べてみるが、
全然そんな気配は無い。

「うーん…まさか超人?」

結局することが思いつかなくて、
私はそのままベットに転がった。

「あーぁ…一人ってつまんない」

ここの所ずっと交替交替でも必ず誰かが傍に居てくれた。
ぷりん、リード、ファナ、ヴァン、キアラ、レオン、アーク……。

でも、今は誰も居ない……。

暇すぎた私は、何気なく横になっていただけのつもりなのに、
気がつけばそのまま眠りへと落ちて行っていた……。




「おーい、エリスーおーきーろー」

「むにゃ…もうご飯?」

「バカ、迎えにきたんだって」

「ほへ?」

……どう考えても、あれからまだ一週間しか経っていない。
2週間後に迎えに来ると言ってたのに、
随分早いんじゃない?

「どったの?」

「お前、とんでもないところに居るもんだからさぁ」

「そうなの?」

「あぁ…この街、宝石の街、エーデルシュタインは呪われた街なんだよ」

「どの辺が?」

「…とにかく早くこの街を出よう」

なんでかよくわからないけど、ヴァンは凄く焦っていて、
いち早くこの街を出たいらしいので、
私はヴァンに連れられてさっくりと街を後にした。

「ふぅ…こんだけ離れれば大丈夫かな」

「どったの?」

「いや…実はあの街はな……」

どうもヴァンの話だとあの街は信じられないことに、
外部とは時間の経過の仕方が違うらしい。

1日で約1週間…なのに3日で1年…4日で…10年…。

「そんなバカなぁ」

「そう思うなら、約2日でどれだけ変わったか見ていくか?」

「2日は2日でしょ?」

私がそう返すとヴァンは百聞は一見にしかずと言い、
私の手をとると風の転移魔法でどこかへとジャンプした。



地面に足が着地したのを感じたので、
私は閉じていた瞳をゆっくりと開く。

すると、そこは私がぶち壊したはずのバラン爺さんの塔があり、
あれだけ完全にぶっ壊したにも関わらず、殆どが復旧し終わっていた。

「……あれ?」

「…まぁ、半分以上は俺が魔法で治したんだけどな」

「へぇー…何でも出来るんだね、魔法って」

と、そんな私の元に、2日前に別れたばかりのアークが駆け寄ってきた。
……2日の割には何だか随分たくましくなったような?

「エリス!と…ヴァンさん!どうも!…半年振りだな、エリス」

「はぁ?アンタ何?ヴァンとグルな訳?」

「…グル?何訳のわかんないこと言ってんだ?」

アークは私が言った言葉にキョトンとした様子だった。
どうもヴァンと組んで、私に意地悪しようとしている訳ではなさそうだ。

「…ちょっと待ってよ?半年?本当に?本当に半年も?」

何だか考えると段々恐ろしくなってくる……。

「半年だぜ?俺、その間に随分魔法がうまくなったんだ!師匠のお陰でさ!」

「へぇー……」

「エリスは何してたんだ?南東のラハサの街に向かってから音沙汰無しだったみたいだけど…」

「ラハサの街…?」

アークのその言葉に驚いて目を丸くしながら私はヴァンの顔を見る。

「…まぁ、あの街に入り込んじゃったら、
探すのが本当に難しくてなぁ…南東って聞いたから南東に向かったのに、
エリスは見事なまでに北西に行っていたと……」

「うそーん!!」

ヴァンは見つかってよかった…とうなづいているが、
もしもう少し遅かったら…私ってばどうなっちゃってたの?
下手したらあの街であと1週間過ごすつもりだったよ……宿代安いし…。

その後、私は買い物から帰ってきたバラン爺さんとアークに別れを告げると、
ヴァンに連れられてあの雪山へと再度足を運ぶ事になる。

とにかく急ピッチで修行を進めるらしい…。
…あぁー!私の半年を返せぇーーー!!!




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