「今日の運勢は……大凶だったかも?」



それからあっというまに、月日は流れ……。
私は、何とかかんとかサウスの町へと戻ってきていた。

「7ヶ月でも、意外と町並みって変わらないもんだね」

そうは言っても、なんだか懐かしくて辺りをきょろきょろと見渡す私。

「まぁ、それくらいでで極端に変わるなんておかしいだろうが、1つだけ変わったことはあるみたいだな」

「1つだけ?」

私が尋ねると、ヴァンが辺りを警戒しながら静かに言った。

「あぁ、町の人達から全然生気が感じられない。
たった7ヶ月で、モンスターの進行が相当に進んだみたいだな」

言われてみると、そんな感じだ。
7ヶ月前にここに訪れた時には、商売の声や、子供の遊ぶ声などが聞こえる、明るい町だった。

だが今は……。

「モンスターか…。どうしてみんな仲良くできないのかなぁ」

「しょうがないんじゃないか?しっかし、お前。服ぼろぼろだなー」

服…?確かにぼろぼろだ…。あの時買った服はほとんどリードが持っていってしまっている。
今私が持っている服は、ファナにもらったドレスと、その前から着ていた服一着だけだった。
まぁ、後は適当にヴァンが買ってきてくれたんだけど、
諸事情によりすぐボロボロになっちゃって……。

「ヴァンだってずっと同じ服何じゃないの〜?」

だが、出会った日から全く服装に変化の無いヴァン。
人にそう言っているくせに、全く同じだなんて同じ様な物なのではないだろうか?

「ふっ、俺はオシャレだからな。同じ服を20着ほど持っているのだ!!!」

(それってオシャレ…?)

激しい突込みを心の中で何度も繰り返していたが、
多分話が進まなくなりそうなので、私はその言葉を心の中にとどめておくことにした。

「よし、一着くらいなら好きなのを買ってやるよ。洋服屋に行くか?」

「わーい!行こう行こう!」

買ってもらえるのなら買ってもらう!それが私の生きる道♪
…ちなみに、人の銭だと遠慮しないと言うのは、
リードに服を買ってもらった時のでご存知の通りだ…。

そして、私達は洋服屋へと向かって歩き出した。

「でもさー、こうしてると私達って変な関係だよねー」

「変?なにがだ?」

「だってさ、私達って二人ともハーフだし、まぁ、見た目じゃわからないけど?
パッと見た感じ年だって親子くらい離れてるのに一緒にいる…変だと思わない?」

「親子か…。そうだな。確かに変かもしれないな……」

そう言うと、何故だかヴァンは寂しそうに私から視線をそらした。

「ヴァン…?」

(何か悪いこといったかな…?)

とりあえず謝っとこう。
そう思って口を開こうとした時、一足早くヴァンが言った。

「着いたぞ」

「ほえ?」

「洋服屋」

「あ……」

…結局言いそびれてしまった。
いつか機会があったらきちんと話そう。
何て思いながら、私はお店の中に入っていった。

「ねぇ?ヴァン。これなんてかわいくない?」

私は、試着した服を着て、ヴァンの目の前でくるっと回ってみせる。

「かわいくない…?どっちだ?」

「かわいい?って聞いてるにきまってるでしょ!全く、どうしてヴァンはこんなに馬鹿なのかしら」

私がぶつぶつ言いながら次の服を選んでいると店員が私達に声をかけてきた。

「あの、すいません。ヴァンさんってもしかして、
過去に英雄フィンと一緒に世界を救ったあのヴァンさんですか?」

「え?ああ、そうだって聞いたけど?」

私がそう答えると、店員の顔色が変わり、
凄くうれしそうな声で歓喜の雄たけびに近い声で話し始めた。

「おお!やはりあのヴァンさん!またこの汚染された世界を救ってくれるんだな!
お嬢さん。こんなに嬉しいことはない。洋服は全部ただでいい。好きなものを持っていくといい」

「え!?いいのー?やったー!ちょっと、ヴァン、聞いたー?」

「ああ、聞いたよ。だが、ただで貰っていく訳にはいかない。金は払う。だから、早く一着選べ」

(ヴァン、なんだか怒ってる……?)

私は、結局迷いに迷った挙句、
最初に手に取った服に決め、それに着替えて店を出た。

「ねぇ、ヴァンなんだか怒ってない?」

「怒ってる?なんでだ?」

私が尋ねるとヴァンはなんだかキョトンっとした表情でこちらに振り返った。

「だって、折角のお店の人の好意を断るし…」

「あぁ、あれか。…俺もな、自信が無いんだよ」

「自信が無い?何に?」

「サタンだよ。サタンはお前から魔力を吸い続けていたはずだろ?
だが、吸い取られ続けていたはずのお前ですらあれだ。
今の俺にあいつを倒す事ができるのか…。不安なんだ」

いつもなにかよくわからない自信に満ち溢れているように感じるヴァンだったが、
この一瞬だけ、本当に小さく見えて、物凄くサタンに対して恐怖しているんだと言うのが感じ取れた。

と、その時だった。

「モ、モンスターだ!モンスターが出たぞー!!」

突然に静かだった町がざわめき出す。

「モンスターですって!?ヴァン、急いで助けに行かないと!」

慌てる私に対して、ヴァンは何だかにやっと妖しい微笑みをうかべていた。

「いや、これはちょうどいい機会だ。エリス。お前ひとりで行け。
そして、修行の成果ってやつを見せてみろ」

私が「え〜!」と嫌そうな顔をすると、ヴァンはにっと笑って私の肩を叩く。

「安心しろ。お前は自分で思っている以上に強くなった。なに、本当に危なくなったら俺が助けてやるから」

「むぅー……」

正直、不安でいっぱいだったが、断ったところで無駄だろうとしぶしぶ了解し、
近くに居た人を呼びとめてモンスターの居場所を聞き出すと、私は、急いでその場所へと向けて走りだした。

街を荒らしていたモンスターは、私が一番最初に出会ったモンスター、ワーウルフだった。
ワーウルフの回りにはすでに、数人の人達が倒れている。
傷の深さから見て、すでに全員の息は無いだろう。

「ひどい……、アンタ!なんでこんな事するのよ!」

私はモンスターをきっ!と睨み付ける。

「ふへへ…、人間は最高の餌で、そして最高の奴隷だからだ!
これほど便利でうまい餌はない!お前みたいな生意気な奴は今すぐ食ってやる!安心するがいい!」

そう言うと、モンスターは私に向かって飛び掛かって来た。
私は、それをひらりとかわし、その時同時に足払いをかけてみる。
すると、モンスターはそれにつまずき、すってんころりんと転がっていった。

「おーっほっほっほ!遅いわね!この私を食べるだなんて、アンタ程度じゃ不可能よ!」

あまりにも思った通りにいったので、ちょっと調子にのってみた。

「ぐうう…キサマ!俺様を本気にさせやがって!お前は食わないでバラバラにしてくれる!」

「食われるより、バラバラにされるほうがマシよ!!」

「やかましい!貴様ちょっと黙れ!!!」

その言葉の後に、ワーウルフは遠吠えをあげる。

「はん!はったりじゃないの?」

だが、次の瞬間。どこからともなくやってきたワーウルフの大軍が私の周りを取り囲んだ。

「へっへ!どうだ!これでお前もどうしようもあるまい!」

ワーウルフは遠吠えをあげて、仲間を呼んだようだ…。
あまり時間をかけてると、もしかしたら更に数が増えるかも…。

「どうしようも!」

「あるまい!」

「あるまい!!!」

「あるまーい!!!」

ワーウルフ達はいやらしく微笑んでいる。

「あーあ、やだやだ、つるむと態度のでかくなるやつって最低よね。
いいわ。そういう事をするんなら、私もちょっと本気だしちゃもんね〜」

私は、腰の剣を抜き、ワーウルフに向かって突きつける。

「私の修行の成果!見せてあげるわ!」

今までずっとはったりだけで切り抜けてきた私だけど…。
今度のは、はったりじゃない!

「吠えよ!剣!舞えよ!炎!我は叫ばん…紅蓮の心を!」

次の瞬間!剣に炎が集まり、あっというまに炎の剣の完成!

「【紅蓮壱式・蓮華】!!」

紅蓮壱式・蓮華は、剣を振るうたびに、散る花のごとく、華麗に炎が辺りへと散乱する範囲攻撃よ。
…って何に説明してるんだろう、私ってば……。

「さあ!燃え盛る剣の前に、その戦う意志を失わなかったのなら…かかってきなさい!」

……決まった!!
初の実戦にして使うことになるとは思わなかったけど、
ここまでバッチリ決まると本当、かっこいい……。

(鏡の前で毎日練習したかいがあったってもんよ!)

なんて心の中で悦に浸っている私に向かって、
背中側にいた数匹のワーウルフが唸り声を上げながら飛び掛かって来る。

「やれやれ…、やっぱ、おとなしく引き下がってはくれないのね」

「ぐええ!」

「ぎあああ!」

炎をまとった剣をそいつ等に向けて一振りすると、
剣の炎はまるで生き物ようにワーウルフ達の身体をはっていき、
そして、数匹をあっという間に火だるまにしてしまう!

「ぎゃあああ!熱いー!誰か水ーー!!」

炎に包まれたワーウルフは、
井戸か池か、とにかく水を求めて何処かへ走り去っていった。

「ひい!」

「助けてくれー!」

そして、その光景を目撃した残りの連中も次々と退散していき、
最後にその場に残っていたのは、最初に町を襲っていた一匹だけになった。

「アンタは逃げないの?」

だが、何故だかよくわからないけど、
ワーウルフは不敵な笑みを浮かべていた。

あの光景を見ていてもまだ余裕があると言うのだろうか。
…それともただのバカなのか?
まぁ、私にはわからないけど、この調子なら余裕でこいつも倒せてしまいそうだ。

「ふふふ…おとなしく食われていればよかったものの、この俺を本気の本気で怒らせてしまったようだな!」

「さっきもそんなこと言ってなかった?」

「うるさい!!…見ていろ!この俺の真の姿…今すぐ貴様に見せてやろう!」

真の姿…モンスターの中にも時々特殊な奴がいて、
特定の条件を満たすことにより自らの力を限りなく上昇させることが出来ると言う奴がいる。

例えば、私の場合は人間と魔物とのハーフと言うことで、
満月の夜の日には魔族の力が高まり、赤い髪になってしまったりするあれみたいなもので…。

「空を見ろぉー!!」

「…空ぁ?」

ワーウルフに言われて、私は空を見上げてみる。
こんな魔物に襲われていると言うとんでもない状況にもかかわらず、
空は、まるで私達をあざ笑うかのようなすっきり快晴だ。

…別に何てことないと思う。
快晴で力を発揮できるモンスターと言えば、
植物系とか、そっち系統のモンスターな訳で。

こいつには関係ないんじゃ…。

なんて思った私は非常に浅はかだった。

ワーウルフが一声、空と大地を突き抜けるほどの遠吠えをあげると、
どこからともなく真っ青だった空に、
大きな暗雲が突如ゆらりゆらりと立ち込めてくる。

「雷よ!!我をうて!!」

空に現れた雷雲から一筋の閃光が地面に向かってほとばしり、
それはワーウルフの頭上へと勢いよく落下する。

「うわぁ!」

強烈な雷鳴に、私はその場から吹き飛ばされる。

「見よ!これが俺の新の姿だ!!」

通常ならば、あんな雷にうたれてしまったなら、
この程度のモンスターは黒焦げになって終わっていたのだろう。

「うわぁー……私ってばなんてついてないの!?」

ワーウルフは、空に向かってもう一度遠吠えをあげる!

…普通の狼と違い、二本足で歩いていて、人の言葉を喋っていた程度の狼が、
身体に雷を迸らせた巨大な化け物…雷狼(サンダーウルフ)へと変貌をとげていてくれた。

「この姿を見ていて生きていた者は居ない!!これで、貴様も終わりだ!」

そしてウルフはいやらしく微笑む。

「…だったら、私が最初の一人になってやるわ!!」

剣を持つ手に力を込め、
私はウルフに向かって突撃していった…。




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