- 「何でそんなに金あんの?」
港には、大きな船が一隻あり、
出航までに期間がある割にはなんだか随分と人でにぎわっていた。
「ん?おかしいな?」
幸い近くに、船員らしき男がいたので私達はその男にたずねてみる。
「え?三ヶ月後?船は、3ヶ月程前から一ヶ月おきに変わったんですよ。
なんでも、東の大陸の人が、船に搭載する、エンジンとやらを開発したそうなので、
普通は一ヶ月半の往復が、3日でできるようになったんです」
「一ヶ月おき…ってことは、もうすぐ出発できるの!?」
「えぇ、そうですね、明後日には」
「ヴァン!明後日だって!!」
「あぁ……そうだな…」
…凄く喜ばしいことのはずなのに、ヴァンはなんだか浮かない顔をしている。
いったいこの状況で、何が気にいらないと言うのだろうか?
「ちなみに、いくらくらいかかるんだ?」
「お二人様なら、ちょうど50万です」
「ごっごごご!!50万!?」
驚愕の値段に、ヴァンが驚いて声をあげる。
……私も驚いたけど、声を出して驚くどころか、
一瞬、お金の価格として全く認識できていなかった。
聞いたことも無い高価なお値段だったから…。
「それで、出発は何時だ?」
「出発は明後日、朝9時です」
「そうか……まぁ、準備をするのに十分な時間はあるな」
明後日、朝9時…。とてもじゃないけど、二日でそんな大金稼げない……。
だがしかし、ヴァンはその場で二人分の船の予約をいれると、
どこにそんな大金を隠し持っていたのかと言うほどの額50万を支払い、
何事も無かったかのようにあっさりと、船のチケットを二枚購入した。
「行くぞ。エリス」
そして、チケットを受け取りカバンにしまいこむと、
どこかへと向かって歩き出していった。
ぼーっとヴァンの後をついてきて数十分。
突然に足を止めると、こちらに振り返る事もなく私に声をかけるヴァン。
「着いたぞ」
そこは間違いなく酒場だった。
あまりの値段に気がおかしくなってしまったのだろうか…。
「やけざけ!?」
「アホなこといってるな…。入るぞ」
ヴァンは私の本気の言葉を軽く流すと、ズカズカと酒場の中へと入っていった。
……何と言うか、ファナも酒場が似合わないと思ったけど、
ヴァンもそれを超えて似合わないと思う…まぁ、格好も格好だけど?
だが、ヴァンはそんな事を気にする様子は無く、
どうどうとカウンターに座り、マスターと謎の世間話をし始める。
「マスター、今日はいい天気だな」
「そうですね。昨日は、いい天気でした」
「そう言えばそうだったな…さて……何かいいのないか?」
(なんなのなんなの?さっきから会話の内容が読めないわ…?)
「お客さん、いくつだね?」
「俺は、S、あいつは、初めてだ」
だが、なぜか二人の会話はなりたっている模様。
と言うか、Sってなに?なぜ私は初めて?ってかSってちょっとやばい?
「Sランク!?…アンタ何者だね?」
「…そこらの奴と何ら変わりない旅人さ」
「……ほら、これがアンタの分だよ」
「サンキュー」
なにやら一枚の紙切れを受け取ると、ヴァンは妖しい笑顔で私に手招きをした。
正直非常に不安だったが、とりあえず私はカウンターの、ヴァンの隣の席に座る。
「じゃあ、俺は行ってくる。お前もしっかりやるんだぞ」
「ちょ…行くってどこへ?」
「その辺〜」
ヴァンはこちらに振り返らずに手を振ると、私の事をおいて酒場を後にしていった。
…ちょっと!!怖いんですけど?!酒場だよ!?
「お嬢さん、【ハンター】の仕事は初めてなんだって?」
びくびくする私に酒場のマスターが優しく声をかけてくる。
ハンターって何ですか?
「えーっと…ハンターとは……」
A〜Fまでのランクで分けられた賞金稼ぎのことで、全てにおいて自己申告がモットーらしい。
例えば、初めてこの仕事をする人が最初からAランクの仕事をやる事も出来るし、
逆にAランクの人が、最低のFランクの仕事をこなす事も出来るとかなんとか。
この世界で長生きするには、自分の力を過信しないことだそうだ。
ちなみに、成功した暁には大金が手に入るらしい。
大金!と言う言葉に、思わず私の耳がぴくぴくと動いたのは秘密。
「今回のあなたの成功報酬は3千ですね」
「さ!3千!?全然大金じゃないじゃない!」
1万とか2万とかもらえるのかと思いきや、たったの3千!!
そりゃ、思わず勢いでカウンターにのりあげちゃうってもんじゃない?
「こほん、とりあえず、カウンターから降りてください」
「…はい」
私は静かにカウンターから降りると、先ほどの席へと腰を下ろす。
「よく考えて頂ければわかりますが、1つの仕事をこなすだけで3千と言うのは、
非常に効率的ですよ、普通の仕事をするよりはね」
「な…なるほど」
もしかしたらヴァンは、自分の食事代位は自分で稼げとでも言いたかったのかもしれない…。
私にとって3千ったら…三日分の食事代金くらいだしね?
「ねぇ、Sって何?」
「SとはAの上のランク、一部の人間が極秘に任命されるランクです」
「えぇー!?」
ヴァンがそんなにすごいやつだとは思わなかった…。
だけど、どうしてあんなに大金を持っていたのか、その理由は何となくわかった気がする…。
ちなみに今回の私の仕事は、
この町の奥の廃虚ビルから、夜な夜な変な声が聞こえてくると言うので、 その原因の究明と、解消。
数人の町の人達が入ってもびっくりして逃げてくるだけなので、さほど危険はないらしいけど…本当かなぁ。
「とりあえずこれは、準備金の千ゴールドです。使って準備するなり、使わないで溜めるなりお好きにしてください。
まぁ、とにかく死なない程度に頑張ってください」
「あはは…」
マスターはやさしい笑顔のまま私にそう告げる。
怒った顔とかで言われるより、よっぽどの恐怖だ。
とりあえず、私はもらったお金で、剣を新調しようと思い、
酒場をでて、武器屋へと足を運んだ。
数分後…。
街の奥の方で武器屋発見。
その噂の廃墟ビルって奴のすぐ傍だ。
ついでに話を伺ってみるのも良いかもしれない。
とか何とか思いながら私は武器屋に入る。
「うーん…安くていい武器ないかなー」
辺りを見渡してみるが、それっぽい感じの剣があるが、
どれがどう言う物かよくわからない。
「ごめんくださーい」
わからない時には人に聞こう。
と言う訳で私は奥の部屋に向かって声をかけてみる。
「いらっしゃい……」
「うわぁ!」
するといつのまに来たのか、
もしくは最初から居たのかわからないけど、
私のすぐ真横に、明らかに顔色の悪い青白い男が姿を現した。
「あの…なにかいい剣ありませんか?」
「ううう…夜な夜な聞こえる声のせいで恐ろしくて寝不足なんです……」
男はそう言うと、ピーピーと泣きながら自分の事を語り始めた。
正直結構どうでも良かったんだけど、何だかんだと成り行きで、私は最後までその話を聞いてしまう羽目に…。
なんでも、男はここの店主で、毎日立派な剣を仕入れていたらしいのだが、
夜な夜な聞こえる変な声のせいで、気持ち悪くて眠れない日々が続いて、
寝不足の為に太陽がまぶしくて外に出られなく困っているらしい。
「なら夜に仕入れに出かければ?」
「夜は怖いじゃないですか」
「……あっ、そう」
「どうですか?かわいそうでしょう?」
男は、またまた自分の事を自分でそんなふうに言っている。
そう言われるといまいちかわいそうじゃない気がするのは気のせいじゃないだろう。
「しょーがないなぁ…私がその原因を解消してあげるよ…」
まぁ、今回の私の仕事は元からそれだったんだけど、
なんだかこんな人に頼まれると、仕事に対する姿勢も投げやりになってくる…。
「ああ!ありがとうお嬢さん!もうこうなったら藁をも掴む気持ちだ!頼むよ!」
「……藁………」
まぁ、頼りなさそうですけどね、私なんて…。
「それじゃ…私、そろそろ行くから…」
なんだか凄く疲れた私は、逃げるように店を後にした。
そのままの足で、私はすぐ傍の廃虚ビルの手前まで下見にやって来ていた。
今はまだ昼だから、何も起きないのだろうが、その前に他の危険が無いか確認にね。
中は、本当に廃虚と言うだけあって、ところどころが崩れ落ちている。
迂闊にここで魔法を唱えるのは危険だろう。
特に石の魔法なんて使おうもんなら…。
あっと言う間に瓦礫の下で、この世とおさらば出来そうだ。
「…電気も止まっちゃってるなぁ」
と言う事は雷の魔法も全く駄目と…言う事になりそうだ。
こう言う狭くて暗い場所で一番有効な魔法は…闇の魔法なのだが、
扱いが難しい上に才能が無いと全く扱えない。
勿論私は使えない。
魔法の使用属性は全部闇の精霊系統なのにね…。
「…弱い魔物か、建物のきしむ音程度で済んでくれないかなぁ………」
その後も、私は、ぶつぶつと独り言を言いながら、
一時間ほど廃虚ビルの中をうろうろうろうろしてみたのだが、
やはり昼間と言うこともあってか、特に怪しいところは見つからないかった。
「やっぱり夜にならないと駄目かなー?」
私は、とりあえず宿に戻ると、時計を夜の6時にセットし、一眠りすることにした。
「おやすみー……」
それから10分ともたたないうちに、私は眠りの世界へと落ちていった。
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