「神様が平等だったら良いのに」



こんな時だけど、ふと思う。私はなんで旅に出たんだっけ?

今、私は死に非常に近しい状態に居るためか、
旅に出たばかりの事がまるで走馬灯の様に頭の中を駆け巡っていた。

最初の目的は確か、賢者の石って言う奴を見つけ出して、
魔力の制御が出来るようになったら、
私の中から生まれ出たサタンを倒すって事だったような…。

でも、それがいつのまにか大きくなっていって、
私の本当の母さんや過去の英雄とか言う人たちに出会って…。

…沢山の人に出会って、沢山の道を歩いた。
迷子にもなったけど、必ず誰かが私を待っていてくれた。

リード…は待っててくれたっけ?何だか凄く曖昧だけど、何度も私を助けてくれた。
ファナは、めんどくさがりながらも、私の事を心から思ってくれていた。
ヴァンは…何だかよくわかんないところもいっぱいあるけど、一緒に居たら落ち着く…。
レオンとキアラは見てる分にも一緒に居るのも凄く楽しくて、年は離れてるけど本当に友達だった。

そしてアークは…もしかしたら初めて出来た同年代の友達かもしれない。
私ってば、村の人たちには必要以上に避けられていたから…。
だけど、どうしてあの日、魔道の儀の日にはあんなに人が集まっていたんだろう?
今更になって凄く疑問に思えてくる。本来ならば誰一人として私には関わりたくなかっただろうに…。

…ぷりんは……なんなんだろう?
友達って感じでもないし、下部って感じもしない。
それでも、何故か私に必要な存在だった。

…もしかしたら、心のどこかで期待していたのかもしれない。
ぷりんと一緒に居れば、いつか母さんに会えるかもしれないって…。
だって、元々あいつは母さんが私にくれた物らしいから…。

で……なんでこんなところで私は、こいつ(サタン)と対峙してるんだろう……。

夜な夜な怪しい声が聞えると言う依頼を受けてやってきた廃ビル。
そこに居たのは、私に魔道の儀で祝福を施したあの神父。

でも、この神父は私を紅の魔女とか言って酷い目にあわせてくれたりもした。

なんでこんな奴とこんなところでまた再会しなきゃならないんだろう。
…悪魔召還とかやってくれちゃってるし…神父の癖に…。

って言うかあの方って誰?
サタンじゃないって事だろうし…あれ?ってことはサタン以上に強い魔物が世に存在してるって事…?

「あー!!もう!!ごっちゃになってきたよ!!」

私は元々考える事にはあまり向いていない。
基本的にいつも勢いだけで行動している。
その性で後悔した事も沢山あるけど、やり直したいとは思わない。

それが私であり、私の生き方で、私らしいって事だと思っているから。

…まだまだやりたい事も沢山ある。
知りたい事も沢山ある。

こんな所で諦めて人生を終わりにしたくはない!!

「だから、サタン……!私は…絶対負けない!!!」

サタンの手には巨大な黒い球が見える。
私は、それに負けない為に、とにかく全魔力を自分の左手だけに込める。

「赤く燃ゆる炎よ……。我が魔力と、其の力を持って、我が前に立ちはだかる愚なる者を地獄の業火で焼き尽くさん!!!」

私の左手には、私の身体の数倍はあろう程の大きさの、真っ赤で巨大な炎が現われる。

「がはは!死ね!エフィナ!」

私の呪文が完成するより一瞬早く、
サタンが私に向けて魔法を放って来る!!

「泣かし尽くしてやるわ!!!!!!」

しかしその刹那!!
私の方も気合いと共にサタンに向けて全力の炎をぶっぱなしてやる!!

「ぐうう!!!なかなかやりおるな!しかし、わしの力はまだこんなものではないぞ!」

サタンはさらに連続で黒い球を放ってくる。
その放たれる黒い球は、最初の巨大な球と合体し、見る見るうちにその大きさを増していく。

「う…くっ…!負けないんだから……!」

「死ね死ねぇ!!」

サタンは休むことなく連続で黒い球を放ちつづけてくる。
それにより私に襲い来る闇の力はドンドンと重くなっていき、
信じられないくらいの速さで、私の方が形勢不利と言う状態に追いやられていく…。

しかし、ずるい!ずるすぎるよ!!!

向こうは両手がフリー。
でも、こっちは左手は動かせないし、右手は左手に添えている。
そうじゃないとあまりの力に左手が吹き飛びそうだから…。

あいているとすれば、頭、位かな…?

「ん?…頭…?」

そういえば、ヴァンが言うには魔族化すれば髪の毛に魔法を付加する事もできたはず……。

…しかし、困った事にやり方が全くわからない。
なんとなく聞いていた様な気がするんだけど…いまいちよく覚えていない。

「ぐっ!早く!早くなんとかしないと!!」

「ハッハッハ!どこまで耐えられるかな?」

なんだか、サタンの笑い声を聞いたら、ものすごく腹がたった。

……どうでもいいことだけど。

「…出来ない出来ない何て言ってたら出来るものも出来ない!!!
信じるのよ!!自分の直感と才能を!!そう…そして後は突撃あるのみ!!」

私は、とりあえず通常魔法を放つ時と同じように、
髪の毛を炎に変えて、サタンの放った黒い球をみじん切りにするイメージを浮かべた!

「……感じで…………みたいな…」

するとどうだろう。
一瞬頭が熱くなったと思ったら、私の髪の毛は見事なまでの炎を帯びていて、
まるで何かの生き物のように燃えながらゆらりゆらりと蠢いていた!!

「うひゃあ!なんだかよくわかんないけどうまくいったー!…よーっし、やっちゃうよー!」

私は、頭を軽く振り、炎の髪を鞭の様にうまく操りながら、
サタンの放つ黒い球を次から次へと、可憐な鞭裁きでみじん切りにしてやった!!

「なんだと!?こんなことが!!」

「へっへーん!どーよ?この私の実力!!」

そして、私の炎と対峙していた黒い球をも、鞭を利用しバラバラに切り裂く!!

「ば…バカな!!!信じられん!!このわしの魔法がこんな簡単に打ち破られるなど…!!」

サタンは私のやった行動に対して相当驚かされたようだ。
目を大きく見開いたまま、完全にその場でほうけてしまっている。

…自らの魔法が消え去った今、私の手から放たれる炎を遮るものは何もないというのに…。

「うあぁーーーー!!」

…一瞬、私の心の中には躊躇いが生まれていた。
このまま炎を彼に向けて放ってしまえば、確実に彼を殺してしまう事になるから。

…何かを得るためには必ず何かを犠牲にしてしまう。
いつまでも偽善だけじゃ生き残る事は出来ないってわかっているけど…。

「ぐおああああ!バカなああああ!!!」

…だけど、出来れば避けて欲しかった。
そして、彼と心から話し合いたかった…。

「……私の、おじいちゃん…だったかもしれないんだもん…ね?」

炎に包まれたサタンは苦しそうにもだえながら、
徐々にその形を失っていった。

「………」

その場に燃え残った黒い灰が…彼の存在が、彼と言う存在の魂が失われた事を証明していた。

そして、傍らで横たわる神父の死体が…あれは夢じゃなかったと言うことを証明していた。

…夢じゃない。それは…私自身が一番よくわかっていた。

「…最悪」

私は、見るのも心苦しい神父の死体を、僅かに残った魔力で燃やして灰にした。

そして、サタンとは別々に空に向けて解き放った。

もしかしたら勝手にそんな事をしたら犯罪だ!
とか言う風に言われるのかもしれないけど、
いつのまにか上ってきていた優しい朝日に照らされながらなら、
彼等が迷わず天国に行けると思ったから…。

「…もし神様が平等なら、天国で皆仲良く暮らしていけるよね?」

その後、完全に魔力を失った私は、
力なくその場に倒れこむと、気を失うようにして眠りの世界へと落ちていった。




「……………おい!起きろ!エリス!」

「わああ!!」

声に驚いて慌てて飛び起きると、
凄くまぶしくて暖かい日差しが、まるで私を狙っているかのようにして、
見事なまでに真上から降り注いでいた。

「うわ!眩し……」

あれからどれくらい眠っていたのかわからないけど、
お天道様はちょうど私の真上に居て、気持ちの良いくらいに青く晴れ渡っている。

「…本当に…お前って奴は三日間も帰ってこないからどうしたのかと思ったら、
こんなところでのん気に居眠りなんかしやがって…心配させるな。全く……」

「うん…、ごめん…」

どうやら、ヴァンは私を探しまわってくれていたようだ。
…しかも三日間も…って…三日!?

「う…うそ!!…私ってば三日間も眠り続けてたの!?」

「知らん」

「知らんって……あぁ…そりゃまぁそうよね…」

「うむ」

ゆっくりと立ち上がり、辺りを見回す。
別に何てことは無い、私的にはついさっきまで見ていた廃ビルからの光景だ。

…こんだけ空のさらけた場所で三日間も眠りこけていて、
レイブンとかの餌にされなかったのは運が良かったのだろう。
普通だったら今頃は餌にされて肉も骨も何も無くなって…あぁー!想像すると怖い!!

「…で、お前はこんな所で何してたんだ?」

「え…何って……かくかくしかじかで……」

私は昨夜…じゃなくて、三日前の夜の出来事を出来る限り鮮明にヴァンに伝える。
勿論、サタンの事、神父の事…自ら犯してしまった悪魔召還の事も…一応に…。

「ドアホ」

あきれたようにそう告げると、ヴァンは私の頭を軽く小突く。
まぁ…一応自分で責任は取ったが一人の人間の命を犠牲にしてしまった。

…本当、自分の迂闊さを心から反省してます…。

「…しかし、なんでサタンが現われたんだろうな?
お前に教えた呪文は低レベルの悪魔しか呼び出せない奴なのに…」

「ふへぇ?そうだったの?」

「……お前の性格を見越して、あまりにも危険な呪文は何一つ教えていない」

「…ひどい!!信用してないのね!!私の事!!」

「あのなぁ、ついさっきやらかしたような奴が言えた台詞か?」

「うっ…確かにそれはそうだけど…」

しかし、それならば何故、サタンが現われたのか?
サタンと言えば魔族の王で、全ての魔物を統括しているといっても過言ではない。
それだけ強大な魔物を倒したんだから、普通ならば魔物の気配や闇の力は相当に衰えるはず。

…だが、何度気配を探ってみても、衰えるどころか、
以前よりも闇の力や魔物の気配は強まっている気がしてならない。

「やっぱり夢だったのかなぁ…?」

「夢じゃない事は確かだな。儀式の後も残ってたし」

「…残ってたの?」

「あぁ、気配だけな。おかげでエリスの気を探るのに苦労したって訳だ」

「ほぇー……」

と、そんな事を話しながら私達は街の方へと戻ってきていた。
相変わらずと言うか、以前のワーウルフの事件以来、街は余計に活気をなくしてしまっていた。

「なんだか寂しいねぇ…」

「仕方ないさ。でも、これから頑張って平和を取り戻せば、ここもまた以前のような活気を取り戻す」

「うん、頑張ろうね!」

「あぁ、そうだな…っと、その前に仕事の報告に行くぞ」

「報告しなきゃ駄目なの?」

「当たり前だアホ」

「あぁー!!またアホって言った!!」

「アホにアホって言って何が悪い。ほら、そんな事やってる間に酒場に着いたぞ」

「むぅー…今に見てろ……」

「出来る限りな」

ひじょーに!腹が立って仕方が無かったが、
実際アホな事をやってしまった自分が居るので思いっきりの反論はできなかった。

…ヴァンって時々こうやって意地悪だから嫌いだ…!!

「いらっしゃーい!」

酒場のドアをくぐると、以前とは違った元気な声が私達を迎え入れてくれた。
…まぁ、酒場にたむろってる奴等の視線も話題も主にヴァンに向けられている訳だが…。

…そんなに凄い事をやってのけたんだろうか?
気になって仕方が無いが、きっと聞いても教えてくれないのだろう…ヴァンだし…。

「あの、マスター…?」

別に悪い事をしたわけではないが、
こうも周りでヴァンの事ばかり言われていると、
一緒に居る私が何かやらかすと大変な事になるんじゃないかと言う気がして、
恐怖感からか思わず声も小さくなる…。

だが酒場のマスターは、そんな私の心境を気にすることなく、
酒場内に筒抜けな大声で私に一声かけると、満面の笑みで私の肩をバシバシ叩いてきた。

「おめでとう!初仕事、見事成功ですね。
三日前より、毎晩聞こえていた声も聞こえなくて、あの辺りの住人はぐっすり眠れたそうです。
はい、これが成功報酬の3千ですよ。あと、武器屋の主人がお礼に渡したいものがあるそうです。
さっそく尋ねてみるといいでしょう。
それでは、これからもしっかりと仕事に励んでくださいね」

マスターの言葉に、ぽかんと口を開けたまま私は立ち尽くしていた。
先ほどまでヴァンの事で盛り上がっていた酒場の住人達も、
あんなガキが?…なんて私の話題をチラホラだし始める。

…結局は、ヴァンの連れなんだしそれくらい…とヴァンの名前が出ているのが気に食わないんだけど…。

「お前、ちゃんと仕事こなせてたんだな」

そんな私に対して、ニヤニヤと嫌味な笑顔を浮かべながら言うヴァン。
…憎たらしいったらありゃしない!!ぷんぷん!!

「私だって、やるときゃやるのよ!!ぷんっ!!
…あ、そだ!武器屋の主人がなにかくれるみたいだから、さっそく行かなきゃ!」

「いや、俺はお前の性で逃した出港の手続きがあるから港に行く。
そんで、その後は宿屋で明日まで寝る。行くなら一人で行け」

ヴァンはちゃっかり嫌味を言い残し、
私の事を置いてスタスタと酒場から出て行ってしまった。

「ちぇ…嫌な奴ー…!そんなんだからもてないのよね!」

本当は何だか寂しかったからもう少し一緒に居て欲しい…
何て言えない私は、渋々一人で、武器屋へと向かうのだった…。




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