「再会の恐怖」



その後、私達は南の城下を目指す途中にある大きな山の頂上を目指していた。

「ぜーはー……な…なんでみんなそんなに体力あるのー…?」

「アンタが無さ過ぎるだけでしょ?」

「うぅ…」

現在の標高は大体500メートルくらい。
もう半分までは登っただろうか?

…それにしても滅多に人が立ち寄らない山なんだろう。
道は悪いし足場は狭いし…でもモンスターは襲ってくるという始末。
たまったもんじゃない。

しかし、以前は全然戦えなかったアークは、
普通に攻撃魔法も上手に使いこなしているし、剣技も相当に上達している。
前は私が守ってあげなきゃって感じだったけど、今は見事に守ってもらっている状態だ。

…レナさんはあまり戦えないのかと思っていたけど、
以外や以外、普通に攻撃魔法も使える上に、どこで学んだのかすばらしい棒術…。
……何と言うか、華麗だ、凄く。

そしてファナは、相変わらず魔法は全然ダメみたいだけど、
愛用の銃に魔法をこめた弾丸を装着したりして、敵の弱点を正確についている。
その辺は経験から来るのだろうが、死角から襲ってくる敵にも振り返ることなく弾丸を撃ち込む技は天才的だと思う。
…後ろにも目がついているのだろうか?

……ちなみに私は登るだけで精一杯で殆ど何もしていない。
何もしてなくても襲い来るモンスターは綺麗に周りの皆が片付けてくれている…。

もしかして私ってば一番弱い…?

「エリスさん、大丈夫ですか?」

「だ…大丈夫…何か用事?」

「いえ、もう着いたみたいですよ、目的の場所に」

「あ…そう…」

前を見てみると、そこには自然に出来たのではない、何と言うか粗末な洞窟があった。
結界も張られていないこんな場所に、一体何があるというのだろうか?

「アーク、アンタ結界は張れる?」

「出来ますよ」

「じゃあ、結界張っておいてね。モンスターが集まってくると話し合いの邪魔になるから」

「わかりました」

…この辺はファナの性格なのか、それとも元々持ち合わせているものなのか、
彼女の下に集まる男は皆彼女の下僕に見える……。

「ちょっとアーク…」

「なんだ?」

「アークまでファナの忠実な下僕になったら嫌なんだからね」

「はぁ?何言ってんだお前?」

「…違うってんなら良いんだけどさ……」

私の言葉にアークは訳がわからんと言う顔で首をかしげていた。

…どうやらまだファナの毒牙にはかかっていないようだ。
安心安心…。

とか何とかやっているうちに、さっきまでそこに居たはずの、ファナとレナさんの姿がなくなっていた。
二人とも、この不気味な洞窟の中へと入っていってしまったのだろうか?

「俺が表で見張ってるから、エリスも二人と一緒に行ってこいよ」

「う…うん!!そうだね!!!」

…本当は暗いの怖いから一人で行くのが嫌だと言いたかったのだけれど、
プライドがそれを許さなくて、ガクガクと震える足を引きずりながら、洞窟の中へと足を踏み入れた。



洞窟は思ったより深くなく、
少し進んだところで、私は先に行っていたファナとレナさんの背中にぶつかった。

「あ…エリスさん…」

「あれ?なにやってんの?」

「しっ…静かにしててください」

何だか良くわからないが、
そう言うと、レナさんは心配そうな表情でファナの方を見つめる。

「ゼノ、久しぶりね」

「…ファナ……か」

ファナが向いている先から、低くて響のある男性の声が聞こえてきた。
……ジッと目を凝らしてみると、熊ほどの大きさの、人間らしき物体が凄く大きな剣を抱えて座り込んでいた。

「俺に何のようだ?」

「力を…アンタの力を貸して欲しいのよ」

「………断る」

珍しくファナが下手に出て人に物を頼んでいるのにも関わらず、
この熊みたいな男は、その頼みをあっさりと断ってしまった。

…いったいどういう関係なのだろうか?凄く気になる…。

「まだ怒ってるの?」

「いいや」

「だったらどうして?」

「…自分で考えろ」

「……そう…」

その後、ファナは私達を押しのけ、洞窟の外へと走り出していった。

「…姉さん!!」

レナさんは慌ててその後を追いかける。、
出遅れた私は、その熊男と二人、暗い洞窟の中に取り残されていた…。

「は…はろー…!」

沈黙に耐えられなくて、思わず男に声をかける私。
すると、男はその声に答えるかのようにゆっくりと顔を上げてこちらの様子を伺ってくる。

暗闇に浮かぶ男の瞳……。
それは予想していたものとは違い、穏やかで優しいものだった。

「…何者だ?」

「あ…えっと…私は…エリス……しがない魔法使いです……」

普段の私だったら、かわいい魔法使い!とか、天才魔法使い!とか言っていたところだが、
何故かこの男の瞳を見ていると謙虚になってしまう自分が居た。

…ファナがしおらしかったのもその為?

「……似ている」

「え?」

しばらく黙ったまま私のほうをじっと見た後、
男はゆっくりと立ち上がり、私の元へと歩み寄ってきた。

「うわ…でかっ…!!」

男は私の倍くらいの身長があり、
そして、その身長と同じくらい長くて大きな剣を手にしていた。

正しく、今の私と似たような状況ではあるけど、
これだけの身長があってこんな筋肉質の男だと全然迫力が違う……。

「エリス…と言ったか……お前がエフィナの娘か?」

「う…うん…そうみたい……」

「…そうか」

男はそれだけ言うと、またその場に座り込んでしまった。
…何のために立ち上がったのか?それともそれくらい驚いていたのか?
そこんところが微妙に気になる。

「すまないが、ファナを呼んできてもらえないか?」

「ん…何だかよくわかんないけどわかった」



表に出ると、べらぼうに酒をあおったファナの姿があった。
……泣いてるかもと思って心配してた私はバカだったのだろうか…。

「ねぇ、ファナ…熊が呼んでたよ?」

「熊ぁ?…あぁ…あのバカの事ね…はいはい…」

手にしていた一升瓶を一気に飲み干すと、
ファナは、ふらふらとした千鳥足で洞窟の中へと消えていった。

「ねぇ、レナさん」

「何ですか?あ…私の事はレナでいいですよ」

「そう?じゃあレナ、ファナってあんなにお酒に弱かったっけ?」

「あぁー……弱くなったのは本当に最近ですね、ゼノさんと酷い喧嘩をして…」

「そうなの?」

「えぇ…実は……かくかくしかじかで……」

「ほへぇー……あの熊とファナが元は恋人同士だったなんて…」

レナの話によると、ゼノとファナはもう10年近く付き合っている恋人同士で、
もうそろそろ落ち着きたいと、ファナの方は考えているらしい。

しかし、ファナは科学者として優秀なため、必要があれば世界各国を飛び交う。
ゼノは別にそう言う訳でもなく、放浪癖が有り、意味も無く世界各国を飛び交う。

ファナは忙しすぎて、ゼノは気まぐれすぎて中々二人の時間を取る事が出来ない。
それが色々と積もり積もって喧嘩になり…今に至るらしい。

「うーん…恋って複雑だね」

「そうですね」

と、そんな時、洞窟の中からゼノとファナがお互い不機嫌そうな顔で姿を現した。
…仲直りしたんじゃないのかなぁ?

「さ、レナ、エリス、アーク…行きましょうか」

「そこの熊はおいてくの?」

「勝手についてくるんじゃないの?
…はんっ…!私の頼みは利けなくてもエフィナの頼みは利ける何て気に入らないわ!」

「母さんの頼み?」

「そうよ、もし娘が尋ねてくる事があったら力になってやってほしいって頼まれてたって言うのよ!」

「じゃあ、何でファナを呼んだの?」

「私のためじゃなくて、エフィナの頼みでついていくって態々伝えるためよ!!」

「あ……そうですか……」

これ以上触れると、その怒りの矛先が私に向けられてきそうなので、
私はさりげなくレナの影に隠れながら山を降りていくのだった……。



そんな気まずい空気の中、私達は何事も無く南の城下のあった場所へとたどり着いた。

「…大体この辺りだと思うんだけど……」

「見事なまでに消え去っているな」

「これじゃ、まるで隕石でも落ちたみたいですね…」

城下があったと思われる場所には、巨大な隕石でも落ちてきたかのような大穴が開けられていて、
覗き込んでみると、それは真っ暗で、全く底が見えないほどに深かった。

「……ちっ…嫌な予感がするわ…」

懐から銃を抜くと、鋭い目つきで辺りを警戒しだすファナ。

ゼノも口には出していないが、周囲の気配を探ろうと意識を集中しているようだ。
普段の穏やかな瞳から、僅かだが殺気が感じ取れる。

「…これだけはっきりと魔法を使った形跡が残されているのに、
全く魔力を残していないなんて…ここを襲った奴は本当に恐ろしい奴なんだろうな…」

「うーん…でもさ、こそこそと隠れて私達の様子を伺っているなんて卑怯な奴よね!!」

「いや、卑怯とかそう言う問題じゃないだろ?」

「しっ!!二人とも静かにして…!!」

そう言った瞬間、ファナが何も無い空間に向けて引き金を引く!!

すると何も無かったはず空間で、ファナの放った銃弾がはじけとび、
銃弾のはじけた辺りだけがゆらゆらとゆがんでいく…。

「…流石……と言うべきか……完全に気配を殺していたつもりだったのだが…」

「……卑怯って言われた時、一瞬だけ気が乱れたのよ」

「…卑怯なのは申し訳なかったと思ってな」

歪んだ空間の中からゆっくりと一人の人物が姿を現した。
それは非常に穏やかな風貌で、見ているものに安らぎを与えるような優しい瞳をしていた。

「久しぶりね…」

「…ファナにゼノ…か……?」

その人物はゆっくりと私達のほうへ歩み寄ってくる。
それを見て、ファナとゼノは私達を後方へと押しやり、一歩前へ踏み出した。

…二人とも微かだが武器を持つ手が震えている……。

「…まさか…この人がフィン?」

私が彼女の名を呼ぶと、先ほどまで穏やかだったはずの彼女から、
おぞましいほどの殺気が大量にあふれ出してくる!!




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