- 「やっぱり母が悪いのか?」
次の瞬間!!腰に携えてある数本の剣から一本の長剣を引き抜き、
私達の方に向け、物凄い速さでフィンが切りかかってくる!!
「き…消えた!?」
私とアークには、その動きが速すぎて捕らえる事もできない。
「……っ!!突然切りかかってくるなんて…アンタらしくないんじゃない?」
フィンの長剣を銃の柄で受け止めるファナ。
…どうやら彼女にはフィンの動きが見えていたようだ…。
「……ファナが私に向けて発砲してくれたお礼だ」
そう言うと、フィンは、ファナからゆっくりと剣を引き離し、それを鞘へと収めた。
…先ほどまで発していた、おぞましいほどの殺気は微塵も感じとれない。
……一体なんだったと言うのだろう?
「それで、お前達、こんな大勢でどこかへキャンプか何かか?」
「……こんな魔物があふれてる中キャンプだなんて、どこのバカがやるのよ」
「ファナとゼノがついているならそれも有りかと思った」
「…そんな訳無いでしょ」
予想していたのとは違い、
フィンとファナはなにやら楽しそうに笑顔で言葉を交わしている。
「ところで、ファナ」
「なにかしら?」
「何故、銃を収めない?」
「…アンタならこの距離で発砲したって避けられるでしょう?」
「まぁ、それは確かにそうだが」
ファナが臨戦状態を崩す事は無い。
と言うより、一瞬でも油断したらそれで終わりと思わされるほどの、
溢れんばかりの緊張感を感じさせられた。
「アンタに聞きたい事があるの、フィン」
「何でも答えてやろう」
「ここをこんなにしたのはアンタね?」
「だったらなんだ?」
「…これ以上、罪を重ねさせはしない」
「お前に私を殺す事が出来るのか?」
「……例え刺し違えてでも!!」
次の瞬間!!ファナがフィンめがけてほぼゼロ距離で数回、引き金を引く!!
「…ちぃ!!」
だが、その弾丸はフィンに当たることなく、
物凄い速さで動いた彼女の残した残像を空しくすり抜けていった。
「…ね…姉さん……」
レナの怯えた声に振り返ると、
いつのまに背後に回りこんだのか、
彼女の喉元に短いナイフを押し当てるフィンの姿があった。
「フィン…!!」
「…迂闊な真似はしない方がいい。
ファナの腕前ならば、寸分の狂い無く私の眉間を貫く事も出来るだろうが、
今ここで発砲してもこの子の額に穴が空くだけだ」
「…ちっ…!」
「とりあえず武器を収めてもらおうか?
捨ててくれなくても結構だ。状況が変わるわけでもないしな」
ファナとゼノはフィンに言われたとおり武器を収めると、
黙ったまま両手を頭の後ろで組んだ。
「抵抗しないからこの子は開放しろ…と言う事かな?それは」
「…そう言う事ね……その子を放して頂戴」
「断る」
そう言うとフィンは、私達の足元に向けて数本の短剣を投げつけてきた。
それは足先を刺すとかそう言うのではなく、腕一本分くらい離れた辺りに突き立てられた。
「ファナ、エフィナはどこにいる?」
「……さぁ…?」
「答えなければこの子が死ぬ事になるぞ」
フィンの手にしているナイフが、レナの喉元に少しだけめり込むと、
ナイフを伝うようにして彼女の白い肌から真っ赤な血が流れ出してくる。
「…どうしてこんな事をするの?」
「ファナはこの子が死んでも良いんだな?」
「私の質問に答えてくれたらアンタの質問にも答えてやるわ」
「………」
ファナがそう言うとフィンは無言のままレナを突き飛ばし、
そして私達にやったように、レナから少し離れた場所に同じようにナイフを突き立てた。
「……私からヴァンを奪ったエフィナをこの手で八つ裂きにするためだ。
こうして人里を襲えば、奴なら必ず姿を現すと思った。
だから私はここで奴が現れるのをずっと待っていたんだ」
「…こんな闇の術まで身につけて何を考えているの?」
「ファナ、エフィナはどこにいる?」
「フィン、アンタは力の求める先を間違えたのよ。
強さを極めようとするあまりに誤って道を踏み外してしまったのね?
だから…こんな闇の術の性で心がおかしくなった…そうでしょ?違うの?」
「答えないのなら答えたくなるようにしてやっても良いんだぞ?」
…先ほどまでの穏やかな彼女は一体どこにいってしまったのだろうか?
気配だけでショック死してしまうのではないかと思われるほどの殺気が彼女から放たれている。
「…フィン!!お願い!!目を覚まして!!」
「……残念だ」
次の瞬間!!私達の耳に頭が割れそうなほどの悲痛な叫び声が響き渡った!!
「レナぁーーー!!」
…美しく輝く白銀の長剣が、レナの身体を貫いている…。
「ね…さ……」
「恨むのなら最後まで答えなかった貴様の姉を恨むんだな」
彼女の身体から剣を引き抜くと、今度は私に向けてフィンは剣を突きつけてきた。
「ファナ、答えなければ次はこの子を殺す」
「……フィン…お願いだから…お願いだからやめて……」
「……残念だよ、ファナ」
そう言うとフィンはゆっくりと剣を振り上げた……。
しかし、フィンは剣を振り上げたままその動きを静止している。
…一体彼女に何が起こったのだろうか?
「姉さん。今のフィンさんに何を言っても無駄です。
フィンさんは今、完全に闇の力に心を奪われています。
闇の力は、破壊や殺戮の衝動が、ものすごい力で生じます。
その為に、どんな強い精神力を持っていたとしても、それに耐えることはできません。
今の彼女は、狂っています」
先ほどフィンに剣で貫かれ倒れていたはずのレナが、
水の魔法でフィンの身体を縛っていた。
「レナ…どうして…?」
「あれ?忘れたんですか?私が癒し魔法を使えたのを…」
流石のフィンも油断していたのか、
レナの魔法で完全に動きを封じられて動けなくなっているようだった。
「姉さん…私は、今、魔法でフィンさんの動きを止めていて動けません。
…フィンさんを闇から救い出す為には…光の力が必要です…
だから、急いでエフィナさんの所へ行ってください…!!
皆さんにかけられた影縛りもといておきましたから…何も…問題は無いはずです…」
「…そ…そんな!!アンタを置いていけるわけ無いじゃない!!」
「私は、大丈夫ですから…早く!早く行ってください!
私が…私が彼女を抑えていられる間に早く……!!」
レナの魔法力が弱いのではなく、フィンの力が強すぎるのであろう。
通常ならば、何もしなくとも数十分は動けなくなるはずの魔法をかけられているのに、
フィンは、少しずつ少しずつ魔法から抜け出してきている…。
「レナ…!!レナぁーー!!」
ファナもそれに気がついてはいるのだろうが、
たった一人の妹が、今度こそ本当に殺されるかもしれない状況で置いていけるだろうか?
……私だったら……絶対に無理だ…。
「許せ…ファナ」
そんなファナに、ゼノが一撃を加えて気絶させ、
彼女の事を自分の肩に軽々と抱え上げた。
「急ぐぞ…」
「う…うん!!アーク!!」
「あぁ……不本意だが…」
「レナ!!絶対しんじゃやだからね!!」
私がそう声をかけると、レナはそれに対して笑顔で答えてくれる。
…絶望的だとわかっているそんな状況でも笑える彼女は、凄く強いと思う…。
「がぁあああ…!!ファナ…!!!待て…エフィナは…エフィナはどこだぁーーー!!!」
走る私達を、フィンの恐ろしい叫び声だけが追いかけてきていた。
…出来る事ならば、どうにかしてレナの事を助けだし、
フィンのことも闇から救い出してあげたかった。
だけど、今ここで引き返す事は、私達全員が命を落とすだけだとわかっていた。
……だからせめて、レナのした事を無駄にしない為に、
私達は振り返らず走るのだった……。
それから、どれくらい走ったのか。
明るく道を照らしていた太陽はいつの間にか姿を隠し、
辺りはすっかりと闇に包まれていた。
「う…げほげほ!」
「あ、ファナ…気がついた?」
「…ここは?」
「わかんない…」
ファナは意識を取り戻したばかりでぼーっとしているのか、
数分の間、口を半開きのまま放心状態だった。
「…レナは!?レナはどこ!!!」
そして、それからしばらくして突如覚醒したかと思うと、
私の肩をつかみガクガクと力強くゆさぶってくる。
「うえぇー!ちょっと落ち着いて!ファナらしくないよー!」
「あ…ごめんなさい…取り乱しちゃって…」
「ううん、しょうがないよ…」
ファナの気持ちはなんとなくわかる。
とても苦しいから、とってしまった行動だとおもう。
…もし私がファナと同じ立場になっていたら、泣き叫んで暴れまわっていただろう…。
「あの娘は、置いて来た。本人の気持ちを主張してな…」
「…そう…でも、あの子は意志の強い子だから、一度言ったら聞かないのはわかってた。
でも…やっぱり…私の…たった一人の大切な妹だから……」
ファナは、私達に背を向けると、小さく肩を震わせていた。
普段はあんな人だけど、やっぱり性根は優しいんだなと改めて思わされる…。
その分、レナを置いてきてしまった事に対しての私の心の痛みも増してくるけど…。
「ファナ…お前、変わったな」
「そう…かしら…?」
「昔のお前なら、そこまでならんだろう」
「…確かに、そうかもしれないわね…
むしろ足手まといと真っ先に私があの子を殺していたかもしれない…」
「…かもしれんな」
…昔のファナがどんなだったのかわからないが、
何だかんだで口は悪いし態度もでかいけど、本当は優しい今のファナからそんな情景は全く想像できない。
……でも、過去なんて知らなくても、今のファナが好きなら、私はそれで良いと思う。
「ゼノ…」
「何だ?」
「この事が片付いたら、もうちょっと将来のこと真剣に考えてね」
「…わかった」
「約束よ?」
「……あぁ」
何と言うか、この二人って正しく喧嘩するほど仲が良いとでも言うべきなのか…
私とアークがいるのにも関わらず、なんだか熱々なのは突っ込むべきなんだろうか?
…まぁ、何でかよくわかんないけど、喧嘩してた二人が仲直りしたならそれでいいかなと、
さりげなく手団扇で熱いなーと言うのを表現するだけで我慢する私なのだった。
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