- 「敗北…?」
しかし、次の瞬間……
「エリス!危ない!!」
「え!?」
突如響き渡った不可解な金属音……
そして、どこからとも無く聞こえてきたアークの声……
気がつけば私は、いつの間にやら地面に倒れこんでいた。
…目の前には、ゼノのものと思われる大きな剣が突き立てられていて……
「ア…ーク……???」
「エ…リス…怪我…無い……か?」
その下には………
「い…いやぁーーーーー!!!」
ゼノの剣により、右足を切断されたアークの姿があり……
「ぐあぁ!!」
剣を弾き飛ばされたゼノは、
なすすべなくフィンにより数多の傷を負わされていた……
「ゼノ…まさかこの程度なのか…?」
「フィン…今のお前の剣には、迷いがある。
昔のお前ならば、反撃の可能性を考え、一撃の元、俺を仕留めていただろうに…」
「ふ…貴様程度…闇の力を手にいれた私にとっては、
恐れるに足らぬと言うだけの事よ…」
「その油断が命取りになるのよ!!」
フィンの後頭部に銃を押し付けるようにして、
何発も連続で引き金を引くファナ!!
「…やはり……貴様等では今の私の相手にはならないようだな……」
だが、先ほどまで確かにそこにあったはずのフィンの身体は、
自らの影に飲み込まれるようにしてその姿を消していた……
「ファナ!後ろだ!!」
そして、自らの影に消えたはずのフィンが、
何と!ファナの影の中から姿を現し、彼女の背に向けて物凄い速さで右手の剣を振り抜く!!
「っと!危ないわね……」
しかし、ファナは、間一髪…その剣を、銃の柄で受け止めた!
「ファナ、それで防いだつもりか?」
「ええ、防いだつもりよ?
だって、今の貴方の目は、私達を殺したいって目じゃないもの。
…それに…もし今のが本気だったのなら、今頃私は真っ二つでしょうから……」
そう言ってフィンに微笑みかけるファナ……
その表情には、怒りや憎悪と言ったものは一切感じられない。
しかし、そんなファナを見て、
フィンは、黙ったままうつむき、僅かに肩を震わせていた。
「フィン…?泣いてるの……?」
遠くから見ていた私にも、フィンは泣いているように見えた。
仲間の温かい言葉によって、
闇から救われ、自らの行いを悔いて泣いているのだと思った。
……だけど、甘かった。
私達は、もっと闇の魔力の力を重く見ておくべきだった。
「…そうか…そんなに死にたいのか!!
なら…望み通り殺してやろう!!!」
「ファナ!!逃げろ!!!」
先ほどよりも更に、ものすごい殺気を放ち、
恐ろしい形相で、フィンは一気に顔をもち上げる!
「フ…ィン……」
フィンの左手の剣が、
ファナの右肩にゆっくりと…深く埋もれていく……
「…ゼノ……」
フィンの頬にかかるファナの右手は真っ赤な血で染まっており、
彼女の左頬を赤く染めながら、そのままゆっくりと地面に落ちていった……
「ファナーーーーー!!!」
ゼノの悲痛な叫びが辺りに木霊する。
「心配するな…お前もすぐに逝ける……」
言葉の後、フィンの右手の剣が、
ゼノのわき腹に深く埋め込まれる……
「目を…目を覚ませ……フィン………」
剣が引き抜かれると同時に、
ゼノは、力無くうつぶせに倒れこんだ。
「さて……」
剣についた血を拭い去ると、
フィンはゆっくりと私の方に歩み寄ってくる……
「エリス…!!逃げろ……!!!」
普通に立っていることさえ出来ないのに、
自らの剣を杖代わりにして、アークは私の前に立ちはだかる。
「…ごめんね……私の性だよね……
私がボーっとしてたから…アークも、ファナも、ゼノも……」
「エリス……」
「大丈夫、私はもう大丈夫だから…休んでて……」
何故だかわからないけど、この時、私の瞳からは沢山の涙が溢れ出していた。
もしかしたら、死を覚悟したからかもしれない。
勝ち目の無い戦いだってわかってたけど、
…私がやらなきゃ……もう誰かが苦しい想いをするのは嫌だから……
私がにらみつけると、
殺気だらけだったフィンの瞳が一瞬だけ穏やかな物へと変わる…
「……いい目だ。ヴァンと同じ、透き通った心を感じる」
しかし、その瞳は、本当に僅かな間に、
また、先程の強烈な殺気だらけなものへと変わる…
「だが、ヴァンを、私だけのものにするには…貴様も…邪魔だ…!!!」
そう告げるとフィンは、剣の切っ先を、静かに私に向けて突きつけてくる。
「私は、負けない」
私は、目に溜まった涙を拭った後、
腰に携えてあった剣をゆっくりと引き抜き、そして詠唱を開始する。
「炎よ、竜の如き、強靭な刃で、我が敵を、打ち砕かん!」
私の手のひらより現れた炎が、
まるで蛇のように剣にまとわりついていく!!!
「【紅蓮弐式・彩火】!」
「ほう…面白い技を使う……だが、所詮は子供の火遊びだ」
フィンは、後ろへと飛びのき、私との距離をとる。
…多分、初めて見る技だから一応様子を見るつもりなのであろう…
「甘いわね!!中距離こそ、彩火の使いどころよ!」
私が剣を振るうと、
炎は鞭のようにしなり、彼女の剣にその身体を巻きつかせる!
「なに……?」
「どう!?そのままその剣を砕いてやるんだから!!」
私は自らの手にギュッと力を込める!!
すると、炎もそれに反応するかのように、
彼女の剣に巻きついていた部分を更に強く締め付ける!!
「やれやれ…この程度か……やはり…子供の火遊びだったな」
「何よ!!強がってないで降参しちゃいなさいよ!!」
私の言葉を鼻で笑うと、
フィンは炎の巻きついた側の剣を、ゆっくりと空にかざした。
「剣(つるぎ)よ!食らいつくせ!!!」
言葉の後、私の炎はどんどんと彼女の剣に吸い込まれていき、
本当にあっと言う間にその姿を消失させてしまう……
「元々炎を司る力は闇…
闇の力を極めた私に闇の力で立ち向かおう等…無謀だよ」
……とかそんな事言われても、
私が使える魔法は…炎と雷と石……
全部闇の力によって発動する魔法ばっかり……
「うぅ…まさかこんな時にもこの偏り具合で苦労するだなんて……」
…だけど、魔力が強ければ、
どんなに属性同士の相性が悪くったって乗り越えられるんだ…!!
「それでも私はやるしかないのよ!!!」
私は、しっかりと剣を構え、呪文を唱える。
「炎よ、我が呼び声に答えよ!
剣と交わり、母なる炎で、すべてを燃やせ!」
壮大な魔力に身体が耐え切れていないのか、
私の手の平からは、ブスブスと音を立てて煙が上がる!!
「【紅蓮参式・炎樹】!」
「…魔力勝負でも挑むつもりか?
実力の違いは先程ので十分にわかっただろうに……」
確かに、実力の違いは十分に理解できている……
ファナやゼノが勝てなかったんだ…私が勝てるはずが無い……
それも良くわかっている……
だけど、だけどそれでも……!!!
「私は…負けられないのよ……!」
私が剣を振るう度、剣からは、巨大な炎の刃が飛ぶ!!
「ちっ……!!中々威力はあるようだな……」
流石に自らでも制御出来ないほどの魔力を込めた呪文…
幾ら相手が強大とは言えども、当たれば幾らかのダメージを与える事は出来る……
フィンもそれを感じ取ってか、私と一定以上の距離を詰めようとはしない。
…だけど、攻撃事態もかすりはしてるけど当たってはいない……
「…一発でも…!!一発でも当たれ!!」
がむしゃらに剣を振り回しながら、
フィンの方へと近づいていく私……!!
「くっ…!!」
一瞬…!!フィンに隙が出来た!!
「今だ!!!」
そう思って剣を力一杯に振るった…その瞬間!!
「う…あ…あぁ…!!」
私の両腕に信じられないほどの激痛が迸る!!
「な…なに……???」
そして、剣を覆いこんでいた炎も、気がつけばその姿を消していた……
「…どうやら、魔力の限界が来たようだな……」
「魔力の…限界……?」
…そう言えば、ヴァンが言ってた……
自らの魔力を超えた魔法を使い続けると……
術者の肉体に異常を来し、場合によっては二度と魔法が使えなくなる事があるって……
「まぁ、この程度の使用なら、二度と使えなくなるとまではいかないだろうが…
…どうせこの場で死ぬのなら同じ事か……」
表情を変えることなく、
フィンがゆっくりと私の元へと歩み寄ってくる……
「炎よ!!我が命に答え敵を焼き尽くせ!!」
…やはり魔力の限界なのか……
自らの腕に痛みが走るだけで、火花さえも全く現れてはくれない……
「死ね……!」
フィンが天高く剣を振り上げる!!
「いやあああ!!」
もう駄目だ!!そう思った…
だけどその時、傷つき、死に掛けていたはずの、ファナの声が聞こえた気がした。
「エリスーー!!!」
「え……嘘……!?」
今度は確かに聞こえた!!!
ファナの声が、そして、ファナの銃の音が!!
「エリス…よく戦った……あとは俺達に任せろ」
「ゼ…ノ……?」
大量の血を流し倒れていたゼノも、
何故か健康的な顔色で、私の目の前に姿を現した。
「どうし……て?」
「その疑問には、彼が答えてくれるよ」
「…彼……?」
アークに言われるがままに、彼が指差す方向にゆっくりと振り返ってみる…。
「よ、遅くなったな…エリス」
「ヴァ…ン……?」
あの時、船から落ち、
大海原を流され消えていったはずのヴァンが、
緑一色でセンス最悪…年甲斐も無く女は口説くけど口下手…
頭は良いけど絶対に使い方は間違ってて、でも魔法だけは上手…
そんなヴァンの姿が私の瞳の中には間違いなく映し出されていた……
「よ、遅くなって悪かったな…エリス」
そう言って微笑む彼の笑顔は相変わらず優しくて、
緊迫したこの場に、僅かな安らぎを与えてくれる……
「悪かったじゃないわよ…本当にいっつもギリギリで来るんだから…!!」
思わず抱きつきそうな衝動を抑え、
私は再度目の前の敵に意識を集中させる。
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